数千年の歴史と精緻な理論体系を持つインドの古典音楽。
紀元前1000年から紀元前500年頃に編纂された宗教文書「ヴェーダ」にも音楽についての詳細な記述がなされているといいます。
まだ、ペルシャや中央アジアの器楽が伝来する前のインド。
音楽の本流は声楽にこそありました。
インドでは、シタールやサロードなどの弦楽器、タブラやムリダンガムなどの打楽器、バンスリなどの笛も、すべては声楽の模倣から始まっています。
あの、揺れ動くようなシタールの音も、人間の声の模倣なのです。
声楽こそ、インド古典音楽の最高峰。
本場インドの古典音楽のコンサートでは、声楽こそが華であり、演目のトリを務めるのも声楽家がほとんどなのだそうです。
インドの声楽。若手実力派声楽家「モーシン・アリ・カーン」
そんな、声楽の若手のホープが、今回来日しました。
インド声楽において最も多くの傑出した音楽家を輩出した「キラナ流派」の実力者「モーシン・アリ・カーン」(Mohsin Ali Khan)です!
浅草アサヒアートスクエア
入口に掲げられた看板
会場は、浅草のアサヒアートスクエア。
今回の来日では、都内を中心に6回の公演が行われ、この浅草の公演は初日となりました。
公演会場の様子
聴衆は約60名ほど。アサヒアートスクエアという会場の性格もあるのでしょうか。30代以上の女性の方が多い印象です。
他の会場では、客層が違っているかもしれません。
浅草の公演では、公演前に、ナビゲーターを務める「サラーム海上」氏とシタール奏者の「ヨシダダイキチ」氏のトークがありました。
そのトークによると、モーシン氏と最初にコンタクトしたのは、ヨシダダイキチ氏だそうで、モーシン氏の方からフェイスブック上でアクセスしてきたのだとか。
そこで、ダイキチ氏がYoutubeで動画を閲覧すると、これがかなり上手い!
それに上品でイケメンでもある!
ということで、本人も自費で来日するということから公演の手配を承諾したという話です。
その後、本人から名門中の名門の「キラナ流派」の演奏家であり、叔父が著名なサロード奏者である「ウスタッド・アブドゥール・サミ・カーン」であると知らされ、本物中の本物であるとわかって、ダイキチ氏びっくり!
ということらしいです。
そんなトークを聞いているうちに、モーシンさんが舞台に登場してきました。
なかなかの男前です。それに、伝統音楽を修練し続けているゆえの風格と、ダイキチ氏の言うような家柄からくる上品さも感じられました。
トーク後にしばらく休憩を挟んで、公演がスタートしました。
出演は、ヴォーカルが「モーシン・アリ・カーン」、シタールが「ヨシダダイキチ」、タブラが「U-zhaan」です。
小型のサントゥールのような楽器でリズムを取りながら、モーシンがゆっくりとした低い声で唄い始めます。
広大なインドの原野を思わせるような、深く広がりのある声です。
モーシンさんによって選ばれた夕方のラーガ。その歌声に呼応して、ダイキチ氏がシタールを奏で始めます。
ゆったりとした演奏が続いた後、U-zhaan氏のタブラのリズムがそこに加わってきました。
モーシンさんの深い声と、それを補佐する煌びやかなダイキチ氏のシタール、U-zhaan氏のタブラのリズムがぴったりと整合しています。
実はこの3人、顔を合わせたのは、ほんの3日前のことだそうです。
それなのにこのハマり具合!
これがインド古典音楽なのです!
お互いにインド古典音楽の理論や規則を理解しているから、即興でもお互いの意を汲み取り、合わせることができるのです。
モーシン氏によると、インド古典音楽家は、音の本質を理解しているので、ジャズやロック、ポップスやクラシックなど、他のどんな音楽にも即興で合わせることができるのだとか。
すごいですね、インド古典音楽!
モーシン氏のリードのもと、演奏は徐々にテンポを速めていきます。
激しくなっていく声の音程の上げ下げ。一音一音の音の揺れ動きがモーシンの声によって正確に描写されていきます。
切れ味鋭い見事な演奏!
シタールやタブラとの掛け合いも見事です。
インドの古典声楽は、歌唱というよりも声による楽器演奏と言う方が近いのかもしれません。
歌詞の内容ではなく、声で演奏する技術を楽しむ感じ。
シタールやサロードなどの演奏が人の声に置き換わった感じです。
もっとも、人の声の方が本家で、シタールやサロードは、それを真似しただけに過ぎないんですが。
演奏は1時間20分くらいで終了しました。
素晴らしい公演、めったに聴くことのできないインド古典声楽を堪能させていただきましたー!
インド古典声楽の本物「モーシン・アリ・カーン」、今後も要チェックです。
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