3000年の歴史を誇るといわれるインドの古都「バラナシ」(Varanasi:वाराणसी Benares Banaras)。
ここは聖なる川「ガンガー」(ガンジス川)に抱かれたヒンドゥー教最大の聖地です。
人々はこの地にやってきて、沐浴することを生涯の願いとしています。
今回は、バラナシについてご紹介します。
バラナシは、ガンジス川に抱かれたヒンドゥー教最大の聖地
「バラナシ」の朝。
インド中から訪れたヒンドゥー教徒がガート(川沿いの石段)に集まり、沐浴を行います。
その神秘的な光景を見ようと、私のような観光客もたくさん集まってきます。
そして、そんな観光客を目当てに商売しようとする輩もたくさん集まってきます。
「バラナシ」には死を待つ老人たちが集まる施設があるそうです。
老い先短い老人たちが、聖地で最期を迎えようとここに集結するのです。
また、ヒンドゥー教徒は自分が死んだ後、灰や骨がガンジス川に流されることを願っているため、河岸にある火葬場には死体も続々と集まってきます。
生と死が渾然一体となった街。生と死にまつわるあらゆるものが集まってくる街。
それが「バラナシ」なのです。
この街はガンガーと共にあります。
人々はこの川で沐浴し、体を洗い、歯を磨き、洗濯し、水を飲み、排泄し、泳ぎ、魚を釣り、そして、死体を流します。
ガートでの人々の沐浴。その祈りの様子を眺めるというのが、バラナシ最大の見どころ。
しかしながら、ここは「インド」。ゆっくりと見物させてくれるわけがありません!
ガートに腰掛けていると、ボート漕ぎやポストカード売り、花売り、笛売り、マッサージ師、チェンジダラー、人形売り、床屋、葉っぱ売り、物乞い・・・。
そんな連中がひっきりなしにやってきて、あしらうだけでひと苦労!
けれども、そういった輩もこの「バラナシ」という小宇宙を構成する一要素なのです。
彼らと並んで石段に腰掛け、彼らの売り込みを適当にあしらいながら、人々が沐浴し祈りを捧げる姿を眺め続ける。
それが、この街らしい、沐浴見物のやり方なのかもしれません。
ガンジス川のガート(川沿いの石段)沿いを歩いていると、必ずと言っていいほどボート漕ぎが声を掛けてきます。
「30分、50ルピーでどうだ?」
頻繁に声を掛けてくる客引きは鬱陶しくもありますが、交渉が成立し、舟に乗ってしまえばそこはもう極楽なプライベートスペース。
引っ切り無しに現れる物売りやガイドたちに煩わされることなく、バラナシの沐浴風景をゆったりと満喫することができるのです!
川の上からしか見られない新たな発見も少なくないので、バラナシに行ったらボートに乗るのが是非ともお勧めです。
聖地バラナシの歴史
「バラナシ」は、ブッダの生まれた頃には既に古都として知られており、古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」にもこの町の記述があるそうです。
その後、バラナシは、12世紀にイスラム王朝の侵入によって、その支配下に置かれます。特にムガル帝国皇帝アウラングゼーブの時代には多くの寺院が破壊され、かなり荒廃したそうです。
ヒンドゥー教の聖地として繁栄を取り戻すのはムガル帝国の勢力が衰えた18世紀のこと。
以来、ヒンドゥー教最大の聖地として、インド最大級の観光名所として多くの来訪者を集めています。
町の名前の由来は、北にあるヴァルナ川と南にあるアッシー川に挟まれた所に位置しているからというのが有力な説だと言われています。
人口は約116万人。ウッタル・プラデシュ州バラナシ県の県都です。
主産業は絹の生産で、街の路地にはサリーなどに使う絹製品のお店が多くあり、界隈を華やかに彩っています。
川沿いにはこのようなガートが南北約6キロに渡って続いています。
人々はここで毎日沐浴をします。
この写真は乾季の風景です。
雨季になるとガンジス川は増水し、建物の白い部分くらいまで水に浸かってしまいます。
壮大な沐浴風景を堪能したいなら11月から3月くらいまでの乾季がベスト!
こちらは、雨季のバラナシの様子。
ほとんどのガートが川の水で埋まり、川の流れもとても早くなるので、沐浴する人も少なくなります。
川沿いではよく洗濯をしている光景を見掛けます。
洗濯をしていると遠くからでもわかります。
「バン!バン!」と大きな音がするからです。
ここでの脱水は洗濯物を叩きつけて行われます。脱水が終わった洗濯物はガートの壁に甲羅干しにされます。太陽の光が激しいので乾くのが早いのです。
これらの仕事は洗濯を生業とするカーストによって行われています。
彼らは不可触民、アウトカースト(カーストの区分にも入れない最も差別されている人々)です。
安宿で洗濯を頼むと彼らにより、こうして洗濯されるのです。
ボートに乗って川へ。バラナシの町と対岸の不浄の地を眺める
ガンジス川の対岸。ここでも洗濯が行われていました。
あんなに建物が密集したバラナシとは対照的に対岸には建物ひとつありません。
ここは不浄の地だとされています。
対岸では水牛も沐浴していました。
飼い主が水牛たちを洗ってあげています。
川を南へと遡ると(この辺りではガンジス川は南から北へと流れています)、ラームナガル城があります。
ラームナガル城は、この辺りを治めたマハラジャの宮殿です。
バラナシの街からはかなり南に位置しているせいか、この建物は川の対岸にあります。
ガンジス川のボート漕ぎです。
後ろにはバラナシの街が見えます。
バラナシは死者の街として知られています。
ヒンドゥー教徒の最大の願いはこの町で死に、遺灰をガンジスに流されることです。
川沿いにはいくつかの火葬場があります。
無数の遺体が川沿いの火葬場に集められ、燦燦と降り注ぐ陽光の下、次々と焼かれていきます。
旅行者もその様子を見ることができます。
布に包まれた人型が炎に包まれ、灰になってゆく様は見る者に様々なことを考えさせます。
人間の生とは、死とは何なのか・・・。
バラナシは訪れる誰もを哲学者にしてしまうのです。
路地を歩くサドゥー
壁に描かれたハヌマン神様
火葬場での写真はご法度です。
写真を撮ったことがばれたら、どんなことをされるかわかりません。
バラナシでは死体があるのが普通だという街ですから(ガンジス川にもよく死体が流れているのを見かけます)、殺されて川に流されても誰も気が付きません。
そのため、この街ではトラブルを起こさないことが大事です。
以前私は、この街でリキシャの運ちゃんを殴った旅行者が翌日川に流されていたという噂を聞いたことがあります。
夜の外出もやめておいた方がいいです。
身包み剥がされ殺されて川に流されてしまっても事件にもなりません。
バラナシはインド最大の聖地ですが、死体となっても誰にも不自然だと思われない恐ろしい町でもあるのです。
「ガンガー」と呼ばれ、崇められているガンジス川
地元の人々に「ガンガー」と呼ばれ、崇められているガンジス川。
ガンガーはヒマラヤの麓のガンゴートリというところを水源としています(ここも聖地であると言われています)。
山を流れ落ちたガンガーは、その後、ヒンドゥスタン平原をゆっくりと流れていき、「アラハーバード」という町の近くにある「サンガム」でヤムナー川と合流します。
伝説ではこの「サンガム」では地下を流れるサラスワティー川も一緒に合流しており、ここでは年に一回、それを讃える数週間に渡る祭りが開かれているのだそうです。
このお祭りは盛大なもので、なんと100万人の巡礼が集まるといいます。
また、12年に一回、ここでは「クンブメーラー」という祭りも開かれ、インド全土から数千万の巡礼者が集結するとして世界的に知られています。
ガンガーは「サンガム」、そして、聖地「バラナシ」を経由した後、いくつかの分流に分かれてベンガル湾へと注ぎます。
コルカタを流れるフーグリー川やバングラデシュのデルタを形成するボッダ川もそんな分流のひとつです。
聖なる川「ガンガー」
ガンガーはそれ自体、神そのものでもあるとされています。
ヒンドゥー教の主神のひとつであるシヴァ神の絵では、たいていシヴァの頭の上から水が流れている様子が描かれます。
実は、この水が「ガンガー」なのだそうです。
伝説によるとシヴァ神は天から流れ落ちる「ガンガー」を頭で受け止めているのだそうです。
あまりに水量が多いガンガーをそのまま流していたら世界は大洪水になってしまう。そのためシヴァが頭で大量の水を受け止めてくれているという話です。
「ラーマーヤナ」にも記述されているというこの逸話。
シヴァのご加護によって、ガンガーの水は聖なる水となりました。
そして、人々はその聖なる水で沐浴し、その水に抱かれて死んでいこうとこの川を訪れるのです。
旅行時期:1994年2月・1996年10月・2003年10月
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