「ガンジスに還る」死を待つ父と、それを見守る家族の物語【映画】

ガンジスに還る エスニック映画館
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また会う日まで——

インドの聖地「バラナシ」を舞台に、
死期を悟った父と、それを見守る家族の旅路。

映画『ガンジスに還る』公式サイト

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ガンジスのほとりで死を待つ父、それを見守る息子の物語

インド北部を流れる「ガンジス川」

インドで8億人以上が信仰していると言われるヒンドゥー教徒にとって、この川は川そのものが「母なるガンガー」として崇拝の対象となっています。

この川で沐浴すればすべての罪が清められ、死後の遺灰を川に流せば輪廻からの解脱が得られると信じられているのです。

ガンジス川沿いにはいくつもの聖地がありますが、その中でも最大で至高な場所が、作品の舞台となる「バラナシ」

世界中のヒンドゥー教徒たちは、この街で死を迎え、死後の遺灰を川に流して欲しいと願っているのです。

 

この作品「ガンジスに還る」(原題:Mukti Bhawan 英語題:Hotel Salvationは、そんなバラナシで最期を迎えたいと願う父と、それを見守る息子、そして、家族たちの日々を綴ったヒューマン・ドラマ。

監督は、弱冠27歳のインドの新進気鋭の監督「シュバシシュ・ブティアニ」。2016年公開の作品です。

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死ぬには努力が足りない、小手先の努力では死は訪れない

ある日、不思議な夢を見て、自分の死期が近いと悟った父ダヤ(ラリット・ベヘル)

彼は、朝の食卓でそのことを家族に伝え、明後日にガンジス川沿いの聖地バラナシに行くと言い出します。

家族の大反対にも屈せず、バラナシへと出発することになるダヤですが、父ひとりで行かせるわけにはいかないと、息子のラジーヴ(アディル・ フセイン)が仕方なしに付き添うことに・・・。

乗合タクシーを使ってバラナシに到着したダヤとラジーヴ。二人はこの街にいくつもあるという、安らかな死を求める人々が暮らす施設「解脱の家」に滞在し、死(解脱)への日々を過ごすこととなります。

 

「解脱の家」には、ダヤと同じような、死を待つ人々がたくさん集まっていました。

みんなで歌を歌ったり、神様への祈りの言葉を紙に書いたり、思い思いのやり方で死を待つ人々。そんな人々とすぐに打ち解け、楽しげに暮らし始めるダヤ。

一方、仕事一筋のラジーヴは、仕事を離れて出てきたこの状況に我慢ならない様子。食事中も携帯電話を離さず、イライラしっぱなし。

ユーモアを交えて描かれる、そんな二人のコントラストの描写が見事です。

インド バラナシ ガンジス川 朝バラナシとガンジス川

 

「解脱の家」で日々を過ごす中、ダヤとラジーヴは、ヴィムラ(ナヴニンドラ・ベヘル)という女性と言葉を交わすようになります。

彼女は夫と一緒に「解脱の家」に来たものの、夫に先立たれてしまい、それから18年間もこの場所に滞在して死を待ち続けている未亡人。

このヴィムラという女性の存在が、作品に深みを与えています。

 

ある日、ダヤは熱を出して寝込んでしまいます。いよいよかと死を覚悟したものの、翌朝ケロッと元気になってしまったダヤ。

そんな彼に、ヴィムラは、

「まだ死ぬには努力が足りない」「小手先の努力では死は訪れない」

と諭します。

 

死ぬための努力。それはたぶん、生きている間に、しておくべき務めを果たす。伝えておくべき言葉を伝えるということなのでしょう。

息子ラジーヴとギクシャクとした関係を続けてきたダヤ。彼はラジーヴに素直に向き合うことができません。そんなダヤに、ヴィムラは彼ときちんと話すよう諭します。

その話をした翌朝、ヴィムラは亡くなるのです。

もしかしたら、ヴィムラが18年間生き続けたのは、ダヤにラジーヴと話すよう伝えるためだったのかもしれません。

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息子に話すべき言葉を伝えた後、静かにガンジスに還る父

インド バラナシ ガンジス川 朝バラナシとガンジス川

 

ヴィムラの助言を受けたダヤは、ラジーヴに彼の人生の最後の務めとなる言葉を伝えます。

「お前は行かねばならん。わしは長年、お前を自分のものだと思ってきた」

息子に対して干渉し続けてきたダヤの言葉は、ラジーヴの心を打ちます。

 

妻ラタや娘スニタの待つ家へと帰り、再び以前と変わらない日常を送り始めるラジーヴ。

しかしながら、彼の心は変わっていました。

スニタが婚約破棄するのを受け入れたり、スクーターに乗ることを許したり・・・。

ダヤの言葉は、ラジーヴの心の角を溶かしてくれたようです。

 

シーンは変わり、バラナシの「解脱の家」にあるダヤの部屋。

すでにダヤの姿は部屋にはありません。

部屋に置かれた鞄には手帳があり、その手帳には、ダヤ自らが書いた死亡広告の文章が記されていました。

「ダヤナンド・クマルは、高名な詩人で作家であった。故人の作品は、今もごく稀に古書店の片隅で埃にまみれて見つかることがある・・・」

ダヤらしいユーモラスなその文章に笑いつつも、思わず涙がこぼれてしまうラジーヴとラタ。

 

バラナシのガンジス川のガートへと続く小道。

ラジーヴとラタとスニタは、ダヤの遺体を担ぎながら川へと向かっています。

葬送の楽団が打ち鳴らす太鼓、死者を送る歌声。

それを聴きながら、ラジーヴは思わず泣き出してしまいます。

そんなラジーヴに慰めの言葉をかけるスニタとラタ。

泣きながら笑顔になるラジーヴ。

 

葬列の向かう先のガンジス川の河岸には、火葬場があります。

息子に話すべき言葉を伝えた父は、そこで静かにガンジスに還るのです。

キャスト

ラジーヴ   :アディル・ フセイン
ダヤ         :ラリット・ベヘル
ラタ         :ギータンジャリ・クルカルニ
スニタ    :パロミ・ゴーシュ
ヴィムラ :ナヴニンドラ・ベヘル
ミシュラ :アニル・ラストーギー

スタッフ

監督・脚本  :シュバシシュ・ブティアニ

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