なぜヨガは世界に広まり、多くの人々に愛されるようになったのか──
南インドの美しい風景とともに綴られるドキュメンタリー
古代インドに生まれ、今や世界中で親しまれている「ヨガ(yoga:योग)」
現在の世界のヨガ人口は、約3億人とも言われています。
果たして、こんなにも世界に普及した「ヨガ」のルーツはどこにあるのか・・・。
本作『聖なる呼吸:ヨガのルーツに出会う旅』は、そんな疑問を抱いたドイツ人映画監督である「ヤン・シュミット・ガレ」によるヨガのルーツを辿る旅。
”近代ヨガの父”とも言われる「ティルマライ・クリシュナマチャリア(Tirumalai Krishnamacharya)」の軌跡を追ったドキュメンタリーです。
そもそも「ヨガ」とは、なに?
さて、ところで、そもそも「ヨガ」ってなんなの?
ってことで、ヨガの起源や概要について、ちょこっと説明。
ヨガの源流が生まれたのはかなり古く、アーリア人流入以前のインダス文明の頃と考えられているそうです。
紀元前に編纂されたバラモン教の聖典「ヴェーダ」の奥義書「ウパニシャッド」にもヨガの行法に関する記述が度々見られるほか、ジャイナ教でもヨガの修行は必須とされ、また、仏教開祖である釈迦もヨガを学んだのだとか。
しかしながら、古代のヨガは、現代主流になっているヨガとは大きく異なっていて、心理的・精神的な修練に重きを置くものだったそうです。
心と心の源(真我)である「アートマン」の合一を目指すことがヨガの目的とされ、日常の目覚めた状態と夢、睡眠の三つと異なる第四の自己意識である真我との合一を目指すために瞑想が行われ、真我の状態を常に保っていられることがヨガの到達点であると考えられていたのだそうです。
この心理的・精神的なヨガは、最高のヨガという意味から「ラージャ・ヨガ」(王のヨガ)と呼ばれているのだとのこと。
ちなみに、ラージャ・ヨガの修行法は、ヤマ(禁戒)、ニヤマ(勧戒)、アーサナ(座法)、プラーナーヤーマ(調気法)、プラティヤーハーラ(制感)、ダーラナー(精神集中)、ディヤーナ(瞑想)、サマーディ(三昧)の8つの段階で構成されていて、この修行法のことを「アシュタンガ・ヨガ」と呼ぶのだそうです。
古代のヨガは「ラージャ・ヨガ」を中心に静的なものが主流でしたが、時代が下るにつれて、ヨガにも様々なバリエーションが現れていきます。
そのうちのひとつである「ハタ・ヨガ」(力のヨガ)は、「アーサナ」(座法)と「プラーナーヤーマ」(調気法)を特に重視した動的なヨガ。
祖は、12〜13世紀のシヴァ教ナータ派のゴーラクシャナータという人物です。
ハタ・ヨガは、瞑想に適した清浄で強靭な肉体を育むために肉体的な修練を行うヨガです。古代では、ラージャ・ヨガの基盤を作ることが目的であると説かれていたのだとのこと。
ラージャ・ヨガとハタ・ヨガ以外のヨガとしては、社会生活を通じて解脱を目指す「カルマ・ヨーガ」(行為のヨガ)、人格神への献身を説く「バクティ・ヨーガ」(信愛のヨガ)、哲学的思索によって真理を目指す「ギャーナ・ヨーガ」(智慧のヨーガ)があります。これらのヨガは、19世紀末、インドの宗教家およびヨガ指導者である「ヴィヴェーカーナンダ」が、サンスクリットの聖典である「バガヴァッド・ギーター」の思想をベースに再編成し提示したものだそうです。
無限なるものとの合一の手段としてヨガを提唱した「ヴィヴェーカーナンダ」
彼は、人によって活動的、精神分析的、宗教的、哲学的といった様々な性格があり、それぞれの性格に合ったヨガを行うべきと説いたのだそうです。
ヴィヴェーカーナンダが瞑想したカニャークマリの「ヴィヴェーカーナンダ岩」
近代ヨガの祖「クリシュナマチャリア」
Sri Tirumalai Krishnamacharya
さて、この映画の主人公でもある「ティルマライ・クリシュナマチャリア(Tirumalai Krishnamacharya)」
彼が世に現れるのは20世紀初頭のこと。
「クリシュナマチャリア」は、現代ヨガのベースを作った人物で、現在、世界中にある様々な流派のヨガはすべて、直接的、もしくは間接的に彼のヨガの影響を受けているのだとか。
彼が自身のヨガを確立させたのは、南インドのマイソールという土地です。
時のマイソール藩王国のマハラジャにヨガ教師として雇われたクリシュナマチャリアは、当時マイソールで振興されていた西洋由来の体操と古代のヨガを融合させ、「ハタ・ヨガ」の名で体系化しました。
これが、現在、世界中で行なわれているヨガのルーツです。
ちなみに、クリシュナマチャリアの「ハタ・ヨガ」は、古代のヨガにはない「シャルシャーサナ」(頭立ちのポーズ)や「サルヴァンガーサナ」(肩立ちのポーズ)を作り出すなど、体操的な側面が重視されていて、古代の「ハタ・ヨガ」とは別物であるのだとか。
けれども、この体操的な要素を強めたクリシュナマチャリアの「ハタ・ヨガ」によって、これまで一部の修行者の間でしか行われていなかったヨガは、女性を含めた一般の人にまで普及することとなったのです。
クリシュナマチャリアのヨガの流れを受け継いだ2大巨頭とも言えるのが、「アシュタンガ・ヴィニヤーサ・ヨーガ」の祖である「K.パタビジョイス」と、「アイアンガーヨガ」の祖である「B.K.S.アイアンガー」です。
映画にはこの2人も出演しています。
映画「聖なる呼吸」と”命をつなぐヨガ”
映画では、クリシュナマチャリアの足跡を、生誕地のムチュクンテ村、近代ヨガのスタイルを確立させたマイソール、晩年に過ごしたチェンナイと辿っていきます。
その途上で、クリシュナマチャリアから指導を受けた子供たちや2人の偉大な直弟子、現代ヨガ最大流派のひとつ「アシュタンガ・ヴィニヤーサ・ヨーガ」の祖である「K.パタビジョイス」、「アイアンガーヨガ」の祖である「B.K.S.アイアンガー」へのインタビューを行い、クリシュナマチャリアが確立したヨガの思想と本質について探っていきます。
監督のヤン・シュミット・ガレは、ヨガの初心者だそうですが、インタビューをする過程で弟子や子供たちからヨガの指導を受けます。
パタビジョイスからは”太陽礼拝”を、アイアンガーからは”アーサナ”の指導を受け、クリシュナマチャリアの三男からは”命をつなぐヨガ”を施されるのです。
特に、”命をつなぐヨガ”の指導の様子は本作品のハイライト的なシーン!
”命をつなぐヨガ”とは、1950年代にクリシュナマチャリアのもとに多数来訪したという欧米人のために生み出されたシークエンスであるのだとのこと。
1950年代初め、欧米人がヨガを学ぶためクリシュナマチャリアのもとを訪れるようになった。クリシュナマチャリアは、彼らのために作り上げたシークエンスを”命をつなぐヨガ”と名付けた。それは、当時すでに精神修養の手段を持たなくなっていた西洋の多元的文化に住む人々のために、宗教と無関係に神を感じることができるように導くセッションだった。
映画『聖なる呼吸:ヨガのルーツに出会う旅』プログラムより
プログラムの説明によると、”命をつなぐヨガ”を含めたクリシュナマチャリアのヨガの特徴は、姿勢と呼吸、意識や視線を一点に定める集中のコンビネーションであるのだそうです。
映画「聖なる呼吸」
この映画を観て、初めてクリシュナマチャリアという人物と、現代のヨガのルーツを知りました。
ヨガを学んでいる人、ヨガに興味がある人にとって、この映画はぜひ観るべき映画だと思います。自分がやっているヨガのルーツや、その思想を知ることができます。
だけど、ヨガにあまり関心がない人にとっては、淡々と進むドキュメンタリーに、ちょっと眠くなってしまうかも。
繰り返し映されるクリシュナマチャリアのモノクロ映像と、BGMで流されるピアノの音楽が眠気を誘うんです。
ヨガをちょぴっとやったことがある私は・・・
また、ヨガをやってみようかなという気持ちになりました。
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