南インド・ケララ州の北部、マラバール地方。
そのマラバールの中の、さらに北部の北マラバールでは、毎年11月から5月にかけて、地域に点在する無数の寺院で『テイヤム(Theyyam)』と呼ばれる祭礼が行われています。
第3回の今回は、「Cheruvaakkara Viswakarma Temple」で見た5種類のテイヤムについてご紹介します。
“炎のテイヤム” 「Kandanar Kelan Theyyam(カンダナール・ケラン・テイヤム)」を見た後、車に乗って次のテイヤム開催場所へと向かいます。
「テイヤム」のメイクアップの様子を見る
「Cheruvaakkara Viswakarma Temple」に到着
到着したのが、「Cheruvaakkara Viswakarma Temple」というお寺。
時刻は午前5時少し前。辺りはまだ静か。日中は暑くなる1月のケララ州北部ですが、この時間帯は少し肌寒く感じられます。
テイヤムが行われる広場
ここが、テイヤムが行われる広場。祠が3つもあって、かなり大きな会場です。
到着した時は、観衆はほとんどいませんでした。
「テイヤム」のメイクアップが行われていました。
祠の裏手では、テイヤムのメイクアップが行われていました。
メイクをされている人が数人います。
オレンジ色にペイントされた顔
腰蓑を付けています。
座った状態でメイクアップ
腰蓑を付け、座った状態でメイクされる人もいます。
この人もこれからテイヤムになるようです。
立て掛けられたテイヤムの頭飾り
メイクアップの様子を眺める地元の若者
子供たちも集まってきました。
正装をした祭祀を執り行う人たちの数が増えてきました。
5時半。広場に正装をした祭祀を執り行う人たちの数が増えてきました。観衆もぽつぽつと集まり始めています。
そろそろ始まる気配が漂ってきました。
仮面を被ったテイヤム「Guligan theyyam(グリカン・テイヤム)」
「Guligan theyyam(グリカン・テイヤム)」
ほどなくして、チェンダ(太鼓)の楽団がおもむろに、ゆっくりとビートを刻み始めます。
そして、そのリズムが安定してきた頃、祠の裏手からテイヤムのひとりが広場へと出てきました。
「Guligan theyyam(グリカン・テイヤム)」です!
太鼓のリズムに合わせ、踊り始める「グリカン・テイヤム」
太鼓の楽団と共に祠の周囲を歩き回る「グリカン・テイヤム」
体全体が白く塗られ、3本の黒い線が描かれている。
仮面を被った「グリカン・テイヤム」
そのうち、グリカン・テイヤムは、仮面を被り、背中に5m以上はあろうかという長い飾りを装着しました。
これが、「グリカン・テイヤム」の完全体のようです。
「グリカン・テイヤム」
「グリカン・テイヤム」がどのような神で、どんな伝説を持っているのかは不明ですが、マラヤーラム語で書かれた「TravelKunar」の記述を不明瞭なGoogle翻訳で確認したところ、どうやら、「グリカン・テイヤム」は、彼らのカーストの守護者であり、シヴァ神の左足の親指の裂け目から生まれ、生き物が死ぬときに命を奪う神だと信じられているのだそう。仮面や背中の飾りの造形、体の縞模様は蛇に由来しているようです。
「グリカン・テイヤム」の動画は↓
踊りに激しさはないですが、たまに飛び跳ねて回転したり、長い頭飾りを地面に付けたりします。
祠の前に置かれた椅子に座る「グリカン・テイヤム」
しばらく、パフォーマンスを行った後、「グリカン・テイヤム」は祠の前に設置された椅子に着座。人々の参拝に応える以外は動かなくなってしまいました。
猿の姿をしたテイヤム「Baali Theyyam(バーリ・テイヤム)」
別のテイヤムが現れました。
「グリカン・テイヤム」が動かなくなってしまった後、別のテイヤムが広場に現れました。
広場の一角で、様々な飾りを装着するテイヤム
楽団が太鼓を叩き、笛を吹きながら、盛り上げます。
広場に現れたテイヤムはまだ完全体ではなく、広場の一角で、頭飾りや顔の装飾、体に付ける装具などを装着していきます。
楽団は太鼓のビートのテンポを上げ、笛の抑揚を徐々に激しくしながら、テイヤムが次第に完全体になる様を盛り上げていきます。
一気に激しく動き回り始めるテイヤム
頭飾りや装具を装着し終えると、テイヤムはまさに魂が入ったかのように一気に激しく動き回り始めました。
これが「憑依」なのでしょうか。演者の体に「テイヤム(神)」が乗り移ったのです!
完全体となった「Baali Theyyam(バーリ・テイヤム)」
こちらが、完全体となったテイヤムの姿。
このテイヤムは、「Baali Theyyam(バーリ・テイヤム)」と呼ばれるテイヤムです。
動画もご覧ください↓
祝福の米?が撒き散らされる中、バーリ・テイヤムは、走り回り、飛び跳ね、ぐるぐると回転します。
派手に飾られたバーリ・テイヤムの衣装
突然静止して、歌舞伎を思わせるようなポーズを取ったり
大勢の観衆が見守る中、躍動し続けるバーリ・テイヤム
バーリ・テイヤムは猿に似た風貌をしています。
バーリ・テイヤムは猿に似た風貌をしています。
「TravelKunar」の記述によると、バーリ・テイヤムはヒンドゥー教の叙事詩「ラーマーヤナ」に登場する猿の王バーリ(ヴァーリン)と同一人物で、猿神として有名なハヌマーンに戦いを挑んで敗れ、ラーマーヤナの主人公であるラーマ王子に殺されたことでも知られているとのこと。
ヴァンナンと呼ばれるカーストの氏神であり、彼らの寺院でのみバーリ・テイヤムは登場するのだそう。
ホースのようなものは、長いしっぽを表しています。
口の部分には猿の容姿を表す白い装飾、手には銀色の爪
何の題材かは不明ですが、物語が演じられています。ハヌマンとの戦いでしょうか?ラーマ王に殺される悲劇のシーンでしょうか?
白い段の上に登り、あたりを睥睨するバーリ・テイヤム
その様子を座って見ている「グリカン・テイヤム」
物語が佳境に入ったのでしょうか。太鼓のリズムが激しくなってきました。
クライマックスが終わったようで、小休止
白い台の上に登り、人々に何やら話し掛けています。
「バーリ・テイヤム」のアップ
グリカン・テイヤムがバーリ・テイヤムに近づいてきました。
バーリ・テイヤムの演目が終了したようです。
登場してから30分ほど。バーリ・テイヤムの演目が終了したようです。
この後、別の演目が始まるのかもしれませんが、ガイドさんに促され一旦ホテルへと戻ることに。
「Cheruvaakkara Viswakarma Temple」の入り口
テイヤムの案内看板
別のテイヤムの看板も掲げられていました。
村を後にし、ホテルへと戻ります。
お寺の境内を出て車に乗り込みます。時刻は午前7時。
この後、ホテルに戻って2時間ほど仮眠し、9時半にホテルのロビーで待ち合わせて再びこの「Cheruvaakkara Viswakarma Temple」へと向かうこととなります。
祝福待ちの行列の絶えない「Vishnumurthy Theyyam(ヴィシュヌモルティ・テイヤム)」
午前10時、再び「Cheruvaakkara Viswakarma Temple」へ
9時半にホテルでガイドさんと待ち合わせ、再び「Cheruvaakkara Viswakarma Temple」へ。
結構な強行軍だったせいか相方はダウンしてしまい、ホテルの部屋で居残り。自分ひとりでの訪問です。
日中の「Cheruvaakkara Viswakarma Temple」でのテイヤム
10時、テイヤムの会場に着くと早朝とはまた違った雰囲気。
朝にも増して大勢の観衆が広場を取り巻いていました。
「Vishnumurthy Theyyam(ヴィシュヌモルティ・テイヤム)」
広場には、朝にはいなかった別のテイヤムが登場していました。
「Vishnumurthy Theyyam(ヴィシュヌモルティ・テイヤム)」です。
動画は↓です。
「Vishnumurthy Theyyam(ヴィシュヌモルティ・テイヤム)」は、テイヤムの中でも数少ないヴィシュヌ派のテイヤム。ヴィシュヌ神のナラシンハの化身で、非常に人気があるテイヤムだそうです。
ヴィシュヌモルティ・テイヤムの伝説がWikipediaに記載されていたので、自動翻訳の上、下記転載します。
ヴィシュヌモルティ・テイヤムは、マラヤ氏族に属する人々によって演じられる、ヴィシュヌ神の信者で下層カーストのパランタイ・カンナンの神聖な表現である。パランタイ・カンナンの物語は、彼がニーレスワラムで幼少期を過ごした頃に遡る。そこで彼は牛の世話をし、上層カーストのクルヴァト・ネールが所有する木から採れたマンゴーを食べていた。クルヴァト・ネールの召使たちは少年を残酷に殴打したため、彼は村を逃げ出し、マンガロールのヴィシュヌ寺院に避難し、そこで12年間暮らした。
結局、ヴィシュヌ神はパランタイ・カンナンにニーレスワラムに戻るよう指示しました。彼は戻ると、上層カースト専用の池で沐浴しましたが、クルヴァト・ナイルとその信者は激怒しました。彼らはその後パランタイ・カンナンを殺害し、その結果クルヴァト・ナイルは多くの問題に直面しました。占星術師は、ヴィシュヌ神は信者の死を不快に感じており、コーラムを行うよう命じたと宣言しました。さらに、マンガロールからパランタイ・カンナンに同行したヴィシュヌムーティに敬意を表して寺院を建設し、その神を崇拝することになりました。
腰蓑を纏ったずんぐりとした容姿が魅力的
広場には朝居たグリカン・テイヤムやバーリ・テイヤムの姿も見えます。
神託を伝えるヴィシュヌモルティ・テイヤム
そのうち、太鼓のリズムの合わせ、ヴィシュヌモルティ・テイヤムがゆったりと踊り始めます。ぐるぐると回転したり、所々で神託を伝えたり。
テイヤムの衣装や動きも興味深いですが、伴奏するチェンダ(太鼓)の早打ちテクニックもすごい!
動画をご覧ください↓
白い段に腰掛け、休憩するヴィシュヌモルティ・テイヤム
しばらく踊った後、ヴィシュヌモルティ・テイヤムは白い段の上に腰掛け、小休止しました。
この炎天下でこの衣装。いくらトランス状態になっているとは言え、暑いに決まっています。従者たちがタオルで扇ぎ、熱を冷ましていました。
人々に神託を与えるヴィシュヌモルティ・テイヤム
しばらくすると、会場に集まった人々が座っているヴィシュヌモルティ・テイヤムの前に集まり始めました。
並んだ人々に対して順番に祝福を与え、神託を伝えるヴィシュヌモルティ・テイヤム。
祝福を受けるために並ぶ人は女性と子供が多い
額に手をかざし、祝福を与えるヴィシュヌモルティ・テイヤム
途切れることなく、ヴィシュヌモルティ・テイヤムの前に人が集まってきます。
人気のあるテイヤムであることが伺えます。
バーリ・テイヤムの前にも人々が集まっていました。
バーリ・テイヤムの神託を聞く人々
真剣な眼差しでヴィシュヌモルティ・テイヤムの神託を聞く
どのような神託がなされているのかはわかりませんが、人々は真剣な眼差しでヴィシュヌモルティ・テイヤムの話を聞いていました。
5mの高さを持つ2体のテイヤムの競演
広場の向こうで別のテイヤムの準備が始まりました。
ヴィシュヌモルティ・テイヤムの神託が続く最中、広場の向こうで別のテイヤムの準備が始まりました。
背中に大きな凧のような飾りを装着しています。
かなり完成度の高いメイクアップ
頭の上に大きな飾りを装着
様々な装具が装着されていきます。
どうやら全ての装具の装着が完了したようです。
このテイヤムの名前は、ガイドさんの話によると、おそらく「Thayparadevatha theyyam(タイパラデーヴァタ・テイヤム)」
タイパラデーヴァタは、ヒンズー教の破壊と創造の女神カーリーの化身と考えられているテイヤムでその歴史は古代にまで遡るのだそう。
こちらのサイトに、タイパラデーヴァタ・テイヤムの伝説が書かれていたので、その一部を翻訳の上転載します。
伝説によると、タイパラデーヴァタ・テイヤムは、ヴィーラバードランとともにパラマシヴァ神の髪から生まれたバドラカリを象徴しています。ヤーガに招待されなかったことで父ダクシャナに侮辱されたサティ・デーヴィが自殺したことを知ったパラマシヴァ神は怒り、自分の髪を地面に打ち付けたと言われています。この不当な扱いに応えて、ヴィーラバードランとバドラカリはヤーガの神殿に行き、それを破壊し、火を放ち、ダクシャ王の首を切り落としました。タイパラデーヴァタ・テイヤムはこの物語を文化的に表現したもので、この神を崇拝することで信者に祝福と保護がもたらされると信じられています。
「Thayparadevatha theyyam(タイパラデーヴァタ・テイヤム)」
このタイパラデーヴァタ・テイヤム、前日の夕方に見た「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム(Neeliyayar Bagavati Theyyam)」と、その姿形が似ています。
5mもの高さの頭飾り。意外な速さで回転して踊るのも同じ感じ。
回転の様子は↓の動画をご覧ください。
手には振ると音が鳴る手裏剣型の金属製の器具を持っています。
テイヤムの前の地面に供物が捧げられていました。
バナナの葉が敷かれ、ココナッツとお米、バナナなどが供えられています。
タイパラデーヴァタ・テイヤムの脇には、何やら供物が捧げられていました。
バナナの葉が敷かれ、ココナッツとお米、バナナなどが供えられています。
供物には蝋燭が立てられており、火が付けられます。
広場にまた別のテイヤムが現れ、準備を始めました。
タイパラデーヴァタ・テイヤムが登場した後、すぐに別のテイヤムが現れ、同じように装具を装着し始めました。
タイパラデーヴァタ・テイヤムによく似た風貌のテイヤムです。
同じような頭飾りが用意されています。
頭飾りを装着
新たなテイヤムが動き始めました!
頭飾りの装着が完了し、新たなテイヤムが動き始めました!
先ほどのタイパラデーバタ・テイヤムとそっくりの外見。「Chonnamma Bhagavathy Theyyam(チョンナンマ・バガヴァティ・テイヤム)」です。
チョンナンマ・バガヴァティ・テイヤムはレアなテイヤムらしく、その詳細についてはネットで調べてもよくわかりません。
実はこの2つのテイヤム「タイパラデーバタ・テイヤム」と「チョンナンマ・バガヴァティ・テイヤム」がどっちがどっちなのかも、正直なところ不明です。
ガイドさんに2つのテイヤムの名前を教えてもらったのですが、どっちがどっちなのかはよくわからなかったのです。
動画もごらんください↓
2体のテイヤムがぐるぐると回転しています。
5mの高さを持つテイヤムの競演です。
最初に出てきたテイヤムは回転の速度が早く、後から出てきたテイヤムは回転速度が遅め。演者の熟練度に違いが見えます。
最初に出てきた神の方が熟練した演者に任される、より重要な神であると推察しました。
練り歩くテイヤム
仮面を被った「Guligan theyyam(グリカン・テイヤム)」、猿の風貌をした「バーリ・テイヤム」、腰蓑を付けた人気のある「ヴィシュヌモルティ・テイヤム」、高さ5mの頭飾りを付けた「Thayparadevatha theyyam(タイパラデーヴァタ・テイヤム)」と「Chonnamma Bhagavathy Theyyam(チョンナンマ・バガヴァティ・テイヤム)」
5体のテイヤムが練り歩く姿を眺めた後、チェンダ(太鼓)の軽快なリズム音が響き渡る広場を後にしました。
屋根付きの建物からテイヤムを眺める人々
テイヤムが行われた村の風景
ガイドさんの車に乗ってホテルへと帰還
南インド・ケララ州の北部、北マラバールの各寺院で毎年11月から5月にかけて行われている伝統的な祝祭『テイヤム(Theyyam)』
今回は、2日間掛けて3箇所の寺院や聖地を訪問。8つのテイヤムを見ることができました。
神聖な森の中の厳かな雰囲気の中で見た「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム」。燃え盛る炎の上を走り抜けるド迫力の「カンダナール・ケラン・テイヤム」。5体のテイヤムの競演を見ることができた「Cheruvaakkara Viswakarma Temple」
いずれも、貴重な体験。案内してくれた「TravelKunar」のガイドさん、よく見えるようにと場所を空けてくれたり、見学する様子を見守ってくれた主催者や観衆の皆さん、そして、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた「テイヤム(神)」に感謝です。
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