さまざまな部材に穴を開け、糸などでつないだ人類最古の装飾品のひとつ「ビーズ」
渋谷区立松濤美術館にて、2022年11月15日(火)~2023年1月15日(日)に開催された展覧会「ビーズ―つなぐ かざる みせる 国立民族学博物館コレクション」は、古今東西の世界中のビーズを一堂に集めた展覧会です。
古今東西の世界中のビーズを一堂に集めた展覧会
渋谷区立松濤美術館の入り口
展覧会では、2階と地下1階の展示会場で、下の5つのセクションによってビーズを紹介していました。
- ビーズとは何か “普段ビーズだと思っていなかった身の回りにある日常品が実はビーズであったり、穴をあけてつなぐだけでさまざまなモノがビーズになりえることに気が付くでしょう”
- 多様な素材 “世界を見渡すと、ビーズは驚くほど多様な素材でつくられていることがわかります。”
- あゆみ “ビーズの素材がどのように流通し、伝播したのか。そのあゆみをたどることは、すなわち人類のあゆみをたどることにつながります。”
- つくる “ビーズはどのようにつくられるのでしょうか。ここでは、素材に穴をあけるための道具や、ビーズの製作過程を映像でわかりやすく紹介します。”
- ビーズで世界一周 “本セクションでは、オセアニア、アメリカ、アフリカ、アジア等でつくられた世界のビーズが一堂に会します。一粒のビーズに凝縮された世界各地の文化、歴史、思想を体感ください。”
期間中は、講演会やシンポジウム、ビーズ作りのワークショップも開催されていたそうです。また、本展覧会は巡回展として、北海道の国立アイヌ民族博物館や石川県七尾美術館でも開催されたようです。
ビーズとは、ビーズの歴史
ビーズとは、石、骨、貝殻、ガラス、プラスチック、木、真珠などのさまざまな形やサイズの素材で形成され、糸や糸を通すための小さな穴のある小さな装飾品のこと。
人類が身に付ける最も初期の形態の宝飾品と言われており、現在発見されている最古のビーズは、イスラエルとアルジェリアの遺跡から出土した中心部分に穴の開いた3つの貝殻で、これは10万年前のものなのだそう。
古代エジプトでは、紀元前5500年頃の先王朝時代には自然石に穴を開けて紐でつないだ装飾品がありました。当初は自然石をそのまま穿孔して使用していましたが、次第に石を研磨して成形するようになり、紀元前4500年頃には石英粉を用いて様々な形のビーズを作るようになったのだそうです。
そのほか、ビーズは世界各地で様々な民族によって作られ、身に付けられて来ました。
西アフリカの粉末ガラスで作られたビーズや真鍮製のビーズ、チベットのジービーズ、ネイティブアメリカンのワンパム、仏教の数珠、イスラムのミズバハ、日本の勾玉などなど。
ちなみに、「ビーズ」という言葉は、アングロサクソン語の「biddan」(祈る)、「bede」(祈る人)から変化して呼ばれるようになったのが語源だと言われています。ヨーロッパのキリスト教圏でロザリオに使用される数珠玉がその由来だと考えられているのだとのこと。
2階の展示会場(第1会場):世界最大級のビーズ製の工芸品
展覧会場内の様子
さてさて、さっそくビーズ展の展示内容を見てみることにしましょう〜♪
会期終了ぎりぎりでの訪問となりましたが、会場は意外にも多くのお客さんで賑わっていました。
首飾り(コロンビア:ティクナ族)
首飾り(エチオピア:アムハラ族)
育児用 お守り(南アフリカ:コーサ族)
腰飾り(ケニア:トゥルカナ族)
首飾り(ブラジル:ウルブ族)
首飾り(台湾:タイヤル族)
首飾り(インド:ナガランド州)
首飾り(ネパール:チベット族)
2階のセクションでは、様々な素材で作られた世界中のビーズの首飾りや腰飾りが並びます。石や貝、金属、鳥の羽、植物、珊瑚、動物の骨や歯、ウロコなどなど。
面白かったのは、注射針のケースで作られた「南アフリカ:コーサ族の育児用のお守り」と、ヒトの歯で作られた「台湾:タイヤル族の首飾り」。
大スズメバチの頭部の首飾りやピラルクのウロコの首飾りもインパクトあります。
椅子(神像付き)
6種類の貝が装飾に利用されている。
6種類の貝が装飾に利用されている椅子(神像付き)。
こちらは、パプアニューギニアのもの。
子どもを背負うための革製袋(エチオピア:オロモ族)
帽子(コンゴ民主共和国:クバ族)
かばん(マーシャル諸島 ミリ環礁)
多くの貝の中でビーズとして最もよく使われてきたのは「タカラガイ」です。
インド洋で産するタカラガイが、アフリカでは内陸部の民族の仮面や壁掛け、帽子などの装飾に使われてきました。アジアでは中国、モンゴル、シベリア。インドではベンガル湾内の貝が内陸部のアッサムに運ばれてきました。
ビーズ人像(ナイジェリア:ヨルバ族)
こちらは、「ナイジェリア:ヨルバ族のビーズ人像」
世界最大級のビーズ製の工芸品であるとのこと。ナイジェリア・ヨルバ族の世襲制の複数のビーズ職人によって作られ、素材のガラスは中国製のものが使われているのだそう。
世界最大級のビーズ製の工芸品
このビーズ人像は、ヨルバの首長をかたどったものだそう。
アフリカの社会の多くでは、ビーズは、儀礼や富の象徴、社会的威信や民族のアイデンティティにかかわるものとして重要な役割を果たしてきました。このビーズ人像もそういった造形のひとつです。
ヨルバのビーズ職人
会場では、ヨルバのビーズ職人の動画も流されていました。イブライム(32)さんです。
トルコ石を縫い付けた頭飾り(ぺレック)インド:ラダック
こちらは、インド北部ラダック地方の女性が結婚式や特別な式典などの時に身につける頭飾り「ぺレック」です。
トルコ石が縫い付けられており、これはチベット文化圏の中でもラダック地方だけなのだそう。
ミイラのビーズマスク(エジプト)
こちらは、エジプトのミイラのビーズマスク。
古代エジプトでは、青緑色の焼き物であるファイアンスを素材としたビーズが広くみられました。
首飾り(北海道:アイヌ)
首飾り(インド)
首飾り(イタリア:ヴァネツィア)
首飾り(ミャンマー:チン族)
ビーズの素材である貝、石、ガラスなどは、交易品として流通しました。トルコ石やラピスラズリ、ヒスイやカーネリアンなどの石は、それぞれ採れる産地が違っており、交易の発展に大きく寄与したと考えられています。
ビーズの文化に大きな変革をもたらしたガラス。ガラスは古代オリエントで生まれ、大航海時代にはヴェネツィアやボヘミアのガラスビーズが世界の多くの地域にひろがっていきました。
地下1階の展示会場(第2会場):ビーズで世界一周
第2会場の様子
地下1階の展示コーナーでは、国立民族学博物館所蔵の世界のビーズが展示されています。「ビーズで世界一周」!
さっそく、展示品を見てみましょう〜♪
頭飾り(パプアニューギニア:シシミン族)
たすき飾り(ペルー:カンパ族)
首飾り(フィジー)
ムシロ貝を使ったパプアニューギニアの頭飾り、オルモシア(マメ科)を使ったペルーのたすき飾り、クジラやシャチの歯を使ったフィジーの首飾り。
地域によって素材が多種多様で面白いです★
仮面(メキシコ:ウィチョル族)
容器(メキシコ:ウィチョル族)
メキシコ:ウィチョル族のビーズの仮面や容器は、メキシコらしく原色でカラフル!
手袋(アメリカ合衆国)
靴(アメリカ合衆国)
弾薬入れ袋(アメリカ合衆国)
素朴で可愛らしいネイティブアメリカンの手袋や靴、弾薬入れ袋。
スリッパ(ブルガリア)
ポンネット(チェコ モラヴィア地方)
東欧ブルガリアのスリッパ、チェコのポンネット。女性的なデザイン&色使い。
女性用スカート(南アフリカ:シャンガーナ族)
仮面(コンゴ民主共和国:クバ族)
女性用装飾品(ケニア:サンブル族)
南アフリカの女性用スカート、コンゴの仮面、ケニアの女性用装飾品。
アフリカらしい、シンプルでストレートな模様と造形。
首飾り(イエメン、サウジアラビア)
首飾り(インド、ナガランド州)
頭飾り(パキスタン:カラーシャ族)
パキスタン:カラーシャ族の頭飾り。
カラーシャ族はイスラム教国のパキスタンではめずらしい非イスラム教徒の少数民族で、人口わずか3000人。独自の多神教を信仰しており、女性たちはタカラガイを縫い込んだ帽子やヘアバンドを被り、首飾りを掛けています。
カラーシャ族は、ギリシャ系の顔立ちで青い目を持ち、かつてここに侵攻したアレキサンダー大王遠征軍の末裔だという説もあります。
クッションカバー(ミャンマー)
頭飾り(台湾:パイワン族)
パイワン族は、台湾南部に住むオーストロネシア語族に属する台湾原住民の一種族。
台湾総督の蔡英文さんも、パイワン族の末裔です。
ビーズ民族衣装を着た6体の人形
第2会場には、ビーズが施された民族衣装を着た6体の人形も展示されていました★
台湾・パイワン族の女性用衣装
台湾・パイワン族の女性用衣装。
婚礼や収穫祭といった儀礼の場で着用される女性の衣装です。基調となる赤、黄、緑の色は着用するものを守護する色であるとのこと。
タイ・アカ族の未婚女性衣装
タイ・アカ族の未婚女性衣装。
貝やコインなどのビーズがあしらわれているアカの衣装です。
コンゴ民主共和国の儀礼用衣装
コンゴ民主共和国の儀礼用衣装。
貝、牙、羽根といったさまざま素材をふんだんに使用した衣装です。
南スーダン:ディンカ族のコルセット
南スーダン:ディンカ族の男性用のコルセット。
ディンカは、南スーダンに住む人びとで、ウシの牧畜を中心に生計を営んでいる人々。世界一身長が高い民族としても知られています。
南アフリカの女性用婚礼衣装
南アフリカの女性用婚礼衣装。
ズールーの結婚式の衣装です。大小さまざまなビーズで全身を覆っています。
カナダ・イヌイットの女性用衣装
カナダ・イヌイットの女性用衣装。
色鮮やかな多くの色が織り込まれた色彩で、黒のオフ・ネック、太腿辺りまであるカミックと呼ばれるブーツが特徴です。
ビーズ絵画「乳搾りの女」
ワイヤー・ビーズ(キリン)
ワイヤー・ビーズ(ミーアキャットの家族)
ワイヤー・ビーズ(クドゥ)
ワイヤー・ビーズ(カバ)
「グローバル時代のビーズ」のコーナーでは、現代のアーティストのビーズ作品が紹介されていました。
ワイヤー・ビーズのキリンとミーアキャットとカバは、日本の作家の作品です。
渋谷区立松濤美術館にて、2022年11月15日(火)~2023年1月15日(日)に開催された展覧会「ビーズ―つなぐ かざる みせる 国立民族学博物館コレクション」
なかなか充実した見応えのある展覧会でした★
大阪・吹田にある「国立民族学博物館」に、また行きたくなってきました♪
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