新潟県十日町市にある「ミティラー美術館」は、インドのミティラー地方で3000年に渡って伝承されてきた壁画「ミティラー画」、インド先住民族のワルリー族が描く「ワルリー画」、ゴンド族が描く「ゴンド画」などを数多く収蔵する美術館です。
この「ミティラー美術館」のコレクション90点を紹介する展覧会「ミティラー美術館コレクション展 インド コスモロジーアート 自然と共生の世界」が、東京都墨田区にある「たばこと塩の博物館」で開催されています。
開催期間は、2021年2月6日(土)~5月16日(日)まで。さっそく見てきましたのでご紹介します♪
ミティラー美術館コレクション展
「たばこと塩の博物館」
こちらが、東京都墨田区にある「たばこと塩の博物館」です。
「たばこと塩の博物館」と「ミティラー美術館」は、これまで5回に渡って展覧会を共催してきてきており、今回は、2006年以来15年ぶりの開催だそうです。
「ミティラー画」や「ワルリー画」「ゴンド画」は、近年、インド関係のイベントで紹介されるようになってきていて、2015年に代々木公園で行われたフェス「ナマステインディア2015」や、2017年に西高島平で開催されたタラブックスの展覧会でも、「ミティラー画」「ワルリー画」「ゴンド画」が紹介されていました(紹介の記事は↓)
「ミティラー美術館コレクション展」は2階特別展示室で開催
「ミティラー美術館コレクション展」は2階特別展示室で開催しています。
入館料は100円です。
チケットを受け取り、さっそく展覧会場へ行きましょう〜!
ミティラー美術館
「ミティラー美術館」は、ミュージシャンである長谷川時男氏(美術館館長)が1982年に開設した私立の美術館です。
美術館は、新潟県十日町市の森の中にある旧大池小学校の校舎を利用しており、冬は雪が4m近くも積もる豪雪地帯であるため、美術館は雪に埋もれます。
美術館では、たくさんの「ミティラー画」や「ワルリー画」「ゴンド画」「テラコッタ」の作品が展示収蔵されているほか、インド人画家たちの制作の場ともなっているのだとのこと。
実は、この「ミティラー美術館」には、一度、訪問したことがあります。それも雪が積もった冬の時期に。
お客さんは自分だけで、館長の奥様らしき方が、美術館の鍵を開け、作品を見せてくださいました。
雑然とした館内には、「ミティラー画」や「ワルリー画」「ゴンド画」の作品が所狭しと飾られ、その作品たちの素晴らしさに大感動したのを覚えています。
「ミティラー美術館コレクション展」展示ブースの様子
さて、「ミティラー美術館コレクション展」の展示品を鑑賞することにしましょう〜♪
上の写真が展示ブースの様子です。開催初日の午後訪問しましたが、お客さんは数えるほど。
ちょっと寂しい気もしますが、ゆっくり鑑賞できます。
ミティラー画
「ドット・ナハーン・アリパン」(ガンガー・デーヴィー)
「ミティラー画」は、インド・ビハール州北部のマドゥバニー県近辺の村で女性たちが描いてきた絵画。その歴史は3000年以上もあると言われています。
ミティラー画は主に自然やヒンドゥー教の神々をモチーフとしており、伝統的には漆喰を塗ったばかりの小屋の泥壁の上に描かれてきました。
「スーリヤムッキーの木」(ガンガー・デーヴィー)
こちらは、1991年に没した、ミティラー画の第一人者として高く評価されている「ガンガー・デーヴィー」の遺作「スーリヤムッキーの木」。未完成の作品です。
たぶん、完成時は細かい葉っぱで木全体を埋め尽くす予定だったのでしょう。
クローブ(丁字)を中心とした構図と、可愛らしい鳥や動物の姿がなかなかGoodです。
「チャクラ」(ゴーダーワリー・ダッタ)
ヴィシュヌ神が指先に持つ土星の輪のような武器「チャクラ」を描いた作品。
ものすごく緻密で細かく描かれています。
「ヴィシュヌ神と宇宙創造」(リーラー・デーヴィー)
「コーワル」(カルプーリー・デーヴィー)
結婚式が行われる花嫁の家で、花嫁と花婿が最初の5日間を過ごすコーワル・ガルの壁面に描かれる絵柄「コーワル」。
7つの蓮華と吉祥と豊穣のシンボルが画面を埋め尽くしています。
「村の生活」(サシカラー・デーヴィー)
「幼年期のクリシュナ」(ゴーダーワリー・ダッタ)
「月に引かれる汽車」(ボーワ・デーヴィー)
「月に引かれる汽車」(ボーワ・デーヴィー)。
テーマは館長の長谷川氏の着想であるとのこと。汽車のデザインと表現が秀逸です♪
「クリシュナと牛」(ボーワ・デーヴィー)
ミティラー画(題名と作者は失念)
馬の周りの空間を草花や鳥、動物たちが埋め尽くしています。
「クリシュナとラーダー」(カルプーリー・デーヴィー)
緻密に描かれた木や鳥
メインのモチーフの周りを花や動物、鳥、幾何学的な図形で満たし、空白は作らないで描くのが伝統的なミティラー画の特徴です。
パターン化された草花や鳥のデザインや色彩がとても魅力的な「ミティラー画」
実際に家の壁に描かれているところも見てみたいなと思いました。
ワルリー画
「タルパー・ダンス」(ジヴヤ・ソーマ・マーシェ)
「ワルリー画」は、インド・マハーラシュトラ州ターネー県に居住する少数民族「ワルリー族」によって描かれている絵画です。
「ワルリー族」の人口は約40万人。万物を育む女神や祖先、精霊、自然神を信仰し、主に農業で生計を立てています。
「ワルリー画」は、結婚式や祭りに際して男女共同で描かれる壁画であるとのこと。
赤土の壁にすり潰した米と水を混ぜた白い絵の具により、幾何学的図形と線描を組み合わせて描かれます。
「きつね」(バルー・ジヴヤ・マーシェ)
この絵、「きつね」だそうです。
このきつねの造形と人物や木、木の葉などの配置構成。ヒンドゥー世界のインド人も、日本人も、西洋人も絶対に思いつかないような表現です。
「馬とパーンチシラー神」(バルー・ジヴヤ・マーシェ)
5人の神様パーンチシラー神の乗った馬が、夜、村を見回るとされているそうです。
そんな伝説をモチーフにした絵が「馬とパーンチシラー神」です。
三角形の図形で構成された馬の造形は、インパクトがあり、躍動感もあります。
「月から雪の大地に落ちた枯葉」(シャンタラーム・ゴルカナ)
「カンサーリー女神(豊穣の女神)」(シャンタラーム・ゴルカナ)
いつも貧しいが、いつも人のために時間を費やしたり、食べ物をあげたりしているとても優しい男にカンサーリー女神がお米を施した。女神のもつ竹カゴからお米が次々と溢れていった。
シンプルで圧倒的な構成。ストーリーがダイレクトに伝わってきます。
女神の持つ竹籠から溢れ出るお米
すごいセンスです!
無数に描かれたお米の粒の緻密さがすごい!これを描くのにどれくらいの時間が掛かったのでしょうか。
「5人の兄弟と一人の娘」(サダシ・ジヴヤ・マーシェ)
「ヴィール神」(サダシ・ジヴヤ・マーシェ)
絵は全て神話や物語などを題材としていますが、最近は現代の生活をモチーフとした作品も描かれています。
現在はインド政府の先住民族振興策により、ワルリー画は紙にも描かれるようになり、その素晴らしい絵画は世界にも紹介されています。
「ベールから生まれた娘」(ジヴヤ・ソーマ・マーシェ)
「魚を獲る大きな網」(ジヴヤ・ソーマ・マーシェ)
「ワルリー画」は、本来婚礼の儀礼の時に家の内壁に描かれる「チョーク」という壁画でしたが、故「ジヴヤ・ソーマ・マーシェ」によって、儀式の目的ではなく、芸術的な追求のために描くという新しい流れが始まり、「ワルリー画」は世界的に注目されるようになったのだとのこと。
ジヴヤ・ソーマ・マーシェは2018年に亡くなりましたが、その芸術性は息子のバルー・ジヴヤ・マーシェに受け継がれています。
「村の結婚式」(ジヴヤ・ソーマ・マーシェ)
木の造形が全て違うのが面白い
こちらは、「ジヴヤ・ソーマ・マーシェ」の作品「村の結婚式」
たくさん描かれた木々。その造形が全て違うのが面白いです。
「ワルリー画」、十日町のミティラー美術館で初めて出会って以来、その素朴で刺激的な表現と世界観に首っ丈です。
ちなみに、デリーのインディラ・ガンディー国際空港の出発ロビーにも、ワルリー画の大きな絵が飾られています。
ゴンド画
「虎」(ジャンガル・シン・シュヤム)
「ゴンド画」は、インド中央部マディヤ・プラデーシュ州一帯に居住する「ゴンド族」によって描かれる伝統絵画です。
「ゴンド族」は、インドの先住民族の中でも最大の民族で、その人口は約1300万人。農耕を主として生計を立て、独自の地母神を信仰しているのだそう。
伝統的に「ゴンド画」は、村の祭りや儀礼の際に家の壁などに描かれてきました。
パルダーン族の「ジャンガル・シン・シュヤム」は、ゴンドの森に住む生き物、神々や伝説などを独自のスタイルで描き、ゴンド画をアート作品として成立させた第一人者として知られています。
「飛行機」(ジャンガル・シン・シュヤム)
「飛行機」(ジャンガル・シン・シュヤム)
「飛行機」は、ジャンガル・シン・シュヤムが日本に来て初めて描いたモチーフのひとつ。1988年に来日した時初めて飛行機に乗り、その時、これを描いてみようと思ったのだとか。
ちなみに、十日町のミティラー美術館の応接室の壁には、大きな飛行機の絵が描かれています。
「チャーンディー女神」(ジャンガル・シン・シュヤム)
民族の神話や森に住む動植物をモチーフに、連続したパターン模様と色鮮やかな色彩で描かれるのが「ゴンド画」の特徴です。
「ゴンド画」と言えば、タラブックスの絵本「夜の木」が有名です。
ジャンガル・シン・シュヤムは、2001年に亡くなってしまいましたが、その技法は多くのゴンド画家たちに受け継がれています。
テラコッタ(ララ・バンディット)
こちらは、テラコッタのアーティスト「ララ・バンディット」の作品。
インダス文明以来、5000年の歴史を持つというインドの伝統的テラコッタ。
ララ・バンディットは、十日町のミティラー美術館に何度も訪れ、多くの作品を制作しましたが、2004年の新潟県中越大震災で大作のほとんどが破損してしまい、こちらに展示されているのは数少ない生き残りなのだとか。
パンフレットとお土産
「ミティラー美術館コレクション展」のパンフレット
なかなか見応えがあった「ミティラー美術館コレクション展」
こちらは、入場の際にいただいたパンフレット。
パンフレットの中身
パンフレットは意外としっかりとした内容で、入場料100円でこれがもらえるのは嬉しい♪
ちなみに、通常展示のたばこや塩に関するブースも、世界のたばこや塩、たばこや塩の歴史や作り方などが紹介されていて、なかなか見応えがあります。
たった100円でこれだけ充実した博物館&展覧会はそうはありません!オススメです★
お土産に買った「TAKIBI BAKERY」のチャイ
満足ついでに、ミュージアムショップで、ミティラー画とは全然関係ないけど、「TAKIBI BAKERY」のチャイも買っちゃいました♪
博物館はスカイツリーの近くにあります。
「ミティラー美術館コレクション展」が開催されている「たばこと塩の博物館」は、スカイツリーのすぐ近く。目の前に聳え立つ巨大なスカイツリーの姿を仰ぎ見ることができます。
「ミティラー美術館コレクション展」概要と地図・アクセス
ミティラー美術館コレクション展
インド コスモロジーアート 自然と共生の世界
- 会期:2021年2月6日~5月16日
- 会場:たばこと塩の博物館 2階特別展示室
- 開館時間:午前11時~午後5時(入館締切は午後4時30分)
- 休館日:毎週月曜日(ただし、5/3は開館)、5月6日(木)
- 入館料:一般・大学生 100円 小・中・高校生 50円 満65歳以上の方 50円
- アクセス:東武スカイツリーラインとうきょうスカイツリー駅徒歩8分
- URL:https://www.tabashio.jp
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