南インド・ケララ州の北部、マラバール地方。
そのマラバールの中の、さらに北部の北マラバールでは、毎年11月から5月にかけて、地域に点在する無数の寺院で『テイヤム(Theyyam)』と呼ばれる祭礼が行われています。
ド派手な衣装とメイクアップに彩られた「神」が現れる祭り「テイヤム」を現地まで見に行きました。
こちらが、テイヤム(のひとつ)。一度見たら忘れられない風貌です。
書籍かネット上で初めて「テイヤム」の姿を見た時、インパクトあり過ぎなその風貌に衝撃を受けました!
テイヤムをぜひ、現地で見てみたい!
そう思った私は、旅の行き先を北マラバールの中心都市「カンヌール」に決定。カンヌールを拠点に周辺の寺院を巡り、8種類のテイヤムを見学しました。
この記事では、カンヌール周辺の寺院で見た「テイヤム」を写真と動画で紹介(全3回)。
第1回の今回は、テイヤムの概要、テイヤムを見る方法、そして、初日に見た「ニーリヤール・コッタム(Neeliyar Kottam)」のテイヤムについてご紹介します。
テイヤム(Theyyam)とは?
『テイヤム(Theyyam)』は「神」を意味する言葉。北マラバール地域の寺院や祠で祀られる土着の神々の総称です。
テイヤムはヒンドゥー教の神のひとつではありますが、下位に位置付けられる土地神で、毎日祀られる上位のヒンドゥー神と異なり年1回の祭礼の時のみに祀られます。
テイヤムの歴史は古く、そのルーツは新石器時代まで遡ると考えられているそう。また、各村ごとのバリエーションも多彩で、少なくとも400以上の種類があると言われています。
テイヤムの担い手は「テイヤッカーラン」と呼ばれる不可触民カーストの人々。
祭礼で彼らは顔にメイクアップを施し、巨大で派手な衣装を身に付け、自らの身体に神を招き降ろして憑依させ、神と一体化します。
そして、ドラムの音に合わせて舞踏したり、剣を振り回したり、火渡りの儀式を行ったりしながら、神話のストーリーを人々に伝えます。
テイヤッカーランの家系で代々伝承されるというメイク技術や舞踏のパフォーマンス。それは日本の歌舞伎にも似たところがあり、人々が集う公共の舞台で夜通し行われる祭礼の様子は、神楽にも通じるものがあるのだとのこと。
テイヤムは村の災厄を除去し、祝福をもたらすと考えられています。人々は祭礼の場でテイヤムとコミュニケーションし、神託と祝福を直接受け取ります。
参考:『神霊を生きること、その世界―インド・ケーララ社会における「不可触民」の芸能民族誌』
テイヤム、始まりの扉。南インド・ケララ州北部の土地にいきる神話
『テイヤム(Theyyam)』を見る方法
現地旅行代理店にガイドを頼む
「テイヤム」を見る方法ですが、結論から言うと最も確実に見る方法は、現地の旅行代理店にガイドを頼むことです。
北マラバールの各村の寺院で行われる「テイヤム」
言うなれば、日本の村祭りのようなもので、いつどこで開催されるのかは、村に住んでいる人や村と関わりのある人しか知りません。
しかも、テイヤムは、早朝から深夜まで様々な演目が時間を置いて断続的に行われるため、短い滞在期間で複数のテイヤムを見たい場合、個人で訪問するのは限界があります。
テイヤムは主に村の寺院で執り行われます。
そこで、今回はカンヌールにある現地の旅行代理店にプライベートガイドを頼み、スケジュール調整をお願いすることにしました。
依頼したのは、TravelKunar という代理店。
メールで、訪問可能日時と参加人数、こちらからの要望(最低5つのテイヤムを見たい、日中と夜の両方の演目を見たい.etc)を伝えて何度かやり取りした結果、夕方、早朝3時、日中と、2日間で3回のテイヤム訪問で、ドライバー兼ガイドが付いて、2名で₹15,000 ということで話がまとまりました。
レスポンスも早くて回答も的確。依頼後、現地でガイドさんとは、What’s App でやり取りしました。
寺院の入り口に貼られたテイヤムの案内を見て訪問する
もし、時間にかなり余裕があり、出来るだけお金を掛けたくないという方は、ネット上で目ぼしい寺院を探して、実際に行ってみるという方法が考えられます。
宿泊していたホテル近くの寺院の入口に貼られていたテイヤムの案内
テイヤムが開催される寺院の入り口には、上の写真のようなテイヤムの案内が貼られています。すべてマラヤーラム語表記ですが、Googleの画像翻訳を使えば、開催日時や大まかなプログラム内容がわかるはずです。
宿泊するホテルの近くの寺院にも、テイヤムの案内が貼られているかもしれません。
ちなみに、今回利用した旅行代理店「TravelKunar」のHPには、テイヤムの開催場所をまとめた「Theyyam Calendar」が掲載されているので参考になります。
一年中テイヤムが行われている寺院に行く
また、カンヌールから約20kmほど北にある「Parassinikadavu Muthappan Temple」という寺院では、写真撮影は出来ないものの、1年を通して毎日テイヤムの儀式が行われ、観光客も見ることができるとのこと。
テイヤム・プライベートツアー出発
ガイドさんの車
テイヤム・プライベートツアー当日。
午後4時、宿泊していたホテル「ベナレ インターナショナル (Benale International)」のロビーで、ガイドさんと待ち合わせをしました。
ガイドさんは、40〜50代くらいの誠実そうな男性の方。挨拶もそこそこに、さっそく車に乗って出発!
最初の目的地は、たくさんの種類のテイヤムを展示しているという博物館「Kerala Folklore Academy」です。
「Kerala Folklore Academy」で様々な種類のテイヤムを見る
「Kerala Folklore Academy」
こちらが、最初に訪れた「Kerala Folklore Academy(ケララ・フォークロア・アカデミー)」
ケララの伝統芸術の活動を促進し宣伝する目的で、ケララ州政府によって設立された文化活動の自治センターです。オープン時間は10:00〜16:30。
入場料はガイド料に含めてくれたようですが、写真撮影は有料で₹200
ケララ州政府によって設立された文化活動の自治センター
館内には数多くのテイヤムが展示されています。
館内には数多くの展示室があり、様々な種類のテイヤムが展示されています。
それぞれ特徴のあるテイヤムの造形に興味津々!
赤と黄色、白、黒の4色で華やかに装飾されたテイヤムの衣装。バリエーション豊富なメイクのデザインなど、その芸術性と神秘性に感嘆させられます。
テイヤムはそのほとんどが男性によって演じられますが、女性が演じるテイヤムもひとつだけ存在するのだそう。
展示されたテイヤムの中には、今回見に行くテイヤムも含まれていて、ガイドさんがこれが見に行くテイヤムだと教えてくれました。
伝統舞踊の練習をする女性たち
「Kerala Folklore Academy」で、バラエティ溢れるテイヤムの造形を見た後、いよいよ本物のテイヤムを見に行きます。
「Kerala Folklore Academy(ケララ・フォークロア・アカデミー)」の概要
- 住所:Kizhakke Kovilakam, Chirakkal, Kannur, Kerala 670011 インド
- 営業時間:10:00〜16:30
- 電話番号:+914972778090
- 公式HP:keralafolklore.org
アカデミーの前に広がる池
アカデミーを出発すると、車は山道を進んでいきます。
15分ほど走った山道の途中でガイドさんは車を止めました。
神聖な森の中で見た「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム(Neeliyayar Bagavati Theyyam)」
神聖な森「ニーリヤール・コッタム(Neeliyar Kottam)」の入り口
ここが、「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム(Neeliyayar Bagavati Theyyam)」が現れるという神聖な森「ニーリヤール・コッタム(Neeliyar Kottam)」の入り口です。
森の中を歩いていくガイドさん
「ニーリヤール・コッタム(Neeliyar Kottam)」は、カンヌール地区にある神聖な森で、マンガットゥパランバという場所にあります。
森の中へと入ると、ガイドさんは「自分がOKと言った時だけ写真を撮るように」と言いました。
テイヤムを見るために集まった人々の姿
森の中の小道を進んでいくと、テイヤムを見るために集まった人々の姿がありました。
参拝するために訪れた正装のインド人がいる一方、カメラを持った観光客らしきインド人もいます。
小屋の前に置かれたテイヤムの衣装
集まった人々の視線の先には、煉瓦造りの小屋があり、その前に赤と白と紺色で塗り分けられたテイヤムの衣装が置かれていました。
おそらく、「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム(Neeliyayar Bagavati Theyyam)」の頭飾りと背中の飾りだと思われます。
ガイドさんのOKをもらって撮影。
撮影ポイントを確保
ガイドさんが、ここが一番いい写真が撮れると言って案内してくれたのがこの場所。
小道の向こうからテイヤムが歩いてくるのだそう。
しばらく待ちます。
15分ほど待ったところで、向こうからシャンシャンという鐘の音が聴こえてきました。
テイヤムがやってきたようです!
「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム(Neeliyayar Bagavati Theyyam)」
こちらが、「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム(Neeliyayar Bagavati Theyyam)」
5mの高さを持つその風貌はかなりのインパクト!
手に持った鐘を鳴らしながら、森の中をゆっくりと歩いてくるその姿は、なかなかにシュールです。
圧倒的な存在感
精緻な装飾が施されています。
後ろから見たテイヤム
写真を撮るインド人たち
動画もご覧ください↓
「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム(Neeliyayar Bagavati Theyyam)」は、TravelKunar の記述によると、マンガットゥパランバ・ニーリヤール寺院(Mangattuparamba Neeliyar temple)の女神で、このテイヤムは通常、夕方、日没時に行われるとのこと。
チェルクヌ、エランジッカル、マサマンガラなど、カンヌールのさまざまな場所に女神ニーリヤール・バガヴァティを祀る寺院があり、この特別なテイヤムはヴァンナン・カースト(Vannan caste)によって演じられるのだそう。
広場に到着したテイヤム
テイヤムの後を付いていくと広場があり、多くの参拝客が周囲を取り囲んでいました。
ガイドさんに広場を見下ろせる茂みを案内され、他のインド人観光客と共にそこから眺めます。
広場は、先ほどの森の小道よりもさらに神聖で厳かな雰囲気。
広場の中に集った人たちの中で、カメラを構えている人はひとりもいませんでした。
後ろから見たテイヤム
数多いるテイヤム。そのそれぞれの背後には伝説があります。
TravelKunar に「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム(Neeliyayar Bagavati Theyyam)」の伝説が記載されていましたので、少し長いですが、自動翻訳の上引用します。
伝説によると、カンヌールのコッティヨールに、ニーリという非常に美しく聡明な下層カーストの女性がいました。彼女は地元の支配者によって殺されました。彼女の死後、ニーリは女神ニーリヤル・バガヴァティになりました。ニーリは生前、砂州の近くに住んでいました。彼女の死後、この場所の隣の川に近づくと、ニーリヤル・バガヴァティは入浴の前に油とターリーの葉(古代では石鹸の代わりに使用)が必要かどうか尋ねました。はいと答えて彼女の近くに行った者は捕らえられ、女神ニーリヤル・バガヴァティはその人の血を吸いました。川に近づいた者は誰も家に戻ることはありませんでした。かつて、カラカド・ナンブーティリという人が入浴のためにそこへ行き、ニーリヤル・バガヴァティを見ました。女神は彼に名前を尋ね、彼はカラカドだと答えました。すると女神は、自分はカーリーであると告げた。そして、油とターリーの葉を彼に与えた。カラッカドは、油とターリーの汁を飲み、それは母親から与えられたアムルトゥ(甘露)だと言った。これを見た女神は、彼が彼を母と呼んだことをとても喜び、彼の命を助け、さらに西に向かう道中、彼に同行した。するとニーリヤル・バガヴァティは、自分が女神であることを明かし、トラと牛が平和に共存している寺院に住みたいと言った。旅の途中、カラッカド・ナンブーティリは、マンガットパランブーで牛とトラが共存しているのを見て、傘(ヤシの葉で作ったもの)を置いて、そこで休んだ。傘の上に乗って彼に同行していた女神は、その場所に留まることにした。その後、カラッカド・ナンブーティリはその場所に女神のための寺院を建てた。
広場の中を歩き回り始めました。
チェンダと呼ばれる太鼓の音色に合わせて歩くテイヤム
そのうち、テイヤムは広場の中を歩き回り始めました。
チェンダと呼ばれる太鼓の乾いた音色に合わせて、テイヤムが歩きます。歩いている途中、ぐるぐると回転するパフォーマンスも。意外と素早い動きです!
動画もご覧ください↓
広場を数周周った後、チェンダの伴奏が止まりました。
それを見たガイドさんは、私の肩を叩き、車へと戻るように促します。
どうやら、部外者が見ることができるのはここまでのようです。
インパクトのあるその姿と、神聖で厳かな祈りの空気感を肌で感じることが出来た「ニーリヤール・バガバティ・テイヤム(Neeliyayar Bagavati Theyyam)」
貴重な体験となりました。
車に戻って出発。
次の目的地、「Kandanar Kelan Vellatam」というテイヤムが行われる別のお寺へと向かいます。
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