南インド・カルナータカ州には、「石でできた彫刻書」と呼びたくなるような寺院が数多く存在します。
その中でも、マイソール近郊の小さな村ソームナートプルに建つ 「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院(Chennakeshava Temple, Somanathapura:ಶ್ರೀ ಚೆನ್ನಕೇಶವ ದೇವಸ್ಥಾನ)」 は、ホイサラ朝建築の完成度を一点に凝縮したような存在です。
巨大さや派手さで圧倒するタイプの寺院ではありませんが、近づき、歩き、壁面をなぞるように眺めていくと、そこには南インド中世の宗教観・美意識・物語世界が、驚くほどの密度で刻み込まれていることに気づかされます。
今回、ユネスコの世界遺産にも登録されている「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院」を実際に現地へ行って観てきました。
この記事では、「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院」について、その歴史的背景、建築的特徴、そして見どころをご紹介していきます。
ソームナートプルのケーシャヴァ寺院とは?
ホイサラ朝が残した13世紀の石彫寺院

「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院」は、13世紀後半、ホイサラ朝の時代に建立されたヴィシュヌ寺院です。
建立を主導したのは、当時の王ナラシンハ3世に仕えた将軍 ソーマナータ・ダンダナーヤカとされており、寺院名「ソームナートプル(ソーマナータの町)」も彼の名に由来すると伝えられています。
ホイサラ朝は、現在のカルナータカ州を中心に勢力を広げた王朝で、ベルール、ハレービードゥ、ソームナートプルなどに、極めて高度な石彫寺院を残しました。
この寺院は、そうしたホイサラ様式の中でも、規模は比較的小さい一方で、彫刻密度と構成美の完成度が非常に高い点で特に評価されています。
ヴィシュヌ信仰と「ケーシャヴァ」

主神である「ケーシャヴァ(Keshava)」は、ヴィシュヌ神の異名のひとつであり、
クリシュナ的側面を含む、慈悲と秩序の神として崇拝される存在です。
この寺院は、明確にヴィシュヌ派(ヴァイシュナヴァ)の思想に基づいて建立されており、外壁・内壁の彫刻にも、ヴィシュヌおよびその化身、関連する神話が数多く表現されています。
ソームナートプルのケーシャヴァ寺院の場所・アクセス・開館時間・料金など
場所
寺院があるソームナートプルは、カルナータカ州マイソール県に位置する小さな村で、マイソール市内から南東方向にあります。
マイソールからは日帰り圏内です。
アクセス・行き方
マイソールの「セントラル・バススタンド」
マイソールからソームナートプルへの所要時間は、車で1時間半〜2時間ほど。
今回は、バスとオートリキシャを使って訪問しました。
行程は下記のとおり。
- 行き:マイソールの「セントラル・バススタンド」9番ホームから「バナール(Bannur)」行きのバスに乗り「バナール」へ(45分)
- 「バナール」のバススタンドでオートリキシャをチャーター(待ち時間1時間含む、遺跡までの往復で料金交渉)※バナール〜ソームナートプルはおよそ20分。
- 帰り:バナールのバススタンドからマイソール行きバスに乗車(45分)
マイソール出発から帰着まで、およそ4時間で観光可能です。
バナール行きのバスは大混雑!
マイソール〜バナールのバスは、15〜30分置きに頻発しています。料金は₹40。
乗車時はみんな我先にと乗車するのでかなり混雑しますが、ちゃんと座れます。
チャーターしたオートリキシャ
バナールのバススタンドには、オートリキシャが数台停まっており、近づくと向こうから遺跡の往復チャーターを申し出てきます。
料金は交渉の結果、₹500(遺跡への往復+待ち時間1時間)ということでまとまりました(これが相場のようで、言い値から下がりませんでした)。

ちなみに、バナールからソームナートプルへの道中の車窓も、のんびりとした農村風景でなかなかGoodでした。
開館時間・料金

こちらが、「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院」の入り口。
開館時間と入場料は下記です。
- 開館時間:8時30分~17時30分
- 入場料:₹250(外国人)※インド人は₹20
しかしながら、ここで問題が!

入り口にいた係員によると、チケット購入はQRコード決済オンリーとのこと!
QRコードで専用サイトにアクセスするも、電話番号の登録→SMSでの受信が求められるので、インドの電話番号を持っていない旅行者は詰みます。
結局、係員さんの温情によって、現金支払いで入場させてくれることに。
感謝です♪
ソームナートプルのケーシャヴァ寺院への入場

料金を支払い、遺跡の敷地内へ入場。
遺跡は綺麗に整備された芝生の庭園で囲まれており、参道を歩いていった正面に寺院の入り口があります。
GoogleMapによる「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院」の空撮です。
寺院自体は小規模なので、ゆっくり観ても1時間あれば十分足ります。


入り口には、世界遺産の銘板と、寺院の紹介パネルがありました。
ここで、靴を脱いで境内へと入ります。
ソームナートプルのケーシャヴァ寺院の紹介

こちらが、「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院」
まずは、遺跡の様子を動画でご覧ください。
境内の面積は約50m×65m。寺院は小祠堂の列を伴った回廊で囲まれ、門は東側にあります。
遺跡には、インド人の観光客が多く訪れていました。外国人は皆無です。
それでは、「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院」の特徴と魅力をご紹介していきます。
星形基壇とトリクータ構成

この寺院最大の特徴は、星形(ステラート)基壇の上に築かれた三つの聖室を持つ「トリクータ様式」の構成にあります。

外壁は直線ではなく、細かく折れ曲がりながら連続しており、その一つ一つの面に、緻密な彫刻が施されています。
この構造によって、「どこから見ても彫刻が途切れない」という、ホイサラ寺院特有の視覚体験が生まれています。

まずは、星形基壇の上をぐるりと周ってみましょう。

ジグザグの星形基壇と、その上に建つ三つの塔。
星形の“折れ”が増えるほど壁面が増え、結果として彫刻を置ける面積が爆増します。
ホイサラ寺院が「彫刻の百科事典」みたいになる仕掛けの一つです。
びっしりと刻まれた彫刻

寺院は小祠堂の列を伴った回廊で囲まれています。
外壁彫刻:石に刻まれた神話世界

寺院外壁の下部には、帯状のレリーフ(フリーズ彫刻)が幾層にも重なって走っています。
- 行進する象の列
- 騎兵や戦闘の場面
- 『ラーマーヤナ』『マハーバーラタ』など叙事詩の一場面
- ヴィシュヌ、ラクシュミー、ナーラヤナなどの神像
これらは単なる装飾ではなく、巡礼者が歩きながら物語を「読む」ための視覚的テキストとして機能していました。
外壁に刻まれた精緻な彫刻の数々
刻まれた象や神、人々の造形はひとつとして同じものがありません。

この彫刻群を完成させるために、どれくらいの人数が携わり、どれくらいの時間が掛かったのでしょうか。
見ていると気の遠くなるような思いです。
ニッチに立つ神々

外壁のくぼみ(ニッチ)には、異なる姿・持物・ポーズを持つ神々が立像として彫られています。

ホイサラ様式では、「誰の像であるか」を判別するための図像ルールが厳密に守られており、注意深く観察することで、神格の違いを読み取ることができます。
星形基壇を一周し、壁面の彫刻を見た後は、寺院の内部へと入っていきましょう。
内部空間と柱装飾

内部空間は外観ほど派手ではありませんが、旋盤加工のように滑らかな石柱や、天井の幾何学的な装飾が見どころとなっています。
外壁の圧倒的な情報量と、内部空間の静けさとの対比は、この寺院を強く印象づける重要な要素のひとつです。
マンダパのドーム天井の彫刻
列柱ホール型のマンダパの3方に前室のついた聖堂があります。
チャクラ(円盤)シャンカ(法螺貝)ガダー(棍棒)パドマ(蓮)を手にしたヴィシュヌ神
フルートを演奏するクリシュナ神

内部は外壁とは対照的に静かな印象で、滑らかに仕上げられた柱や天井装飾が目を引きます。
見学を終え、マイソールへ

寺院をひと通り見て回ると、そろそろ持ち時間の1時間が残り少なくなってきました。
遺跡の入り口へと戻りましょう〜。
寺院の入り口で記念撮影する人々
学校の社会科見学でしょうか。
石段に腰掛けていた時、近づいてきた犬
遺跡の入り口に到着
遺跡の入り口に到着。
待っていたオートリキシャに乗り込み、バナールへ。
長閑な農村風景を眺めながらバナールへ疾走
バナールのバススタンドでマイソール行きバスに乗車
15分ほどで、バナールのバススタンドに到着。
リキシャのドライバーに料金を支払い、15分ほどして到着したマイソール行きのバスに乗車。
朝マイソールを出発して4時間弱。マイソールバススタンドに帰着。
マイソールから半日観光で、ユネスコの世界遺産にも登録されている「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院」を堪能することが出来ました♪
まとめ

「ソームナートプルのケーシャヴァ寺院」は、ホイサラ朝建築における「技巧」「信仰」「物語性」が、過不足なく、しかし極めて濃密に詰め込まれた寺院です。
巨大遺跡のような圧倒感はありませんが、一歩ずつ歩き、壁を読み、彫刻を追っていくことで、中世南インドの宗教世界が立体的に立ち上がってきます。
マイソール周辺を訪れる機会があれば、単なる郊外の遺跡としてではなく、ホイサラ芸術の精華に触れる場所として、ぜひ時間を取って向き合いたい寺院です。
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