ルーマニア北部マラムレシュ地方の街「シゲット・マルマツィエイ」
観光案内所で地図をもらい、街のレストランで食事を済ませると、雨が降ってきました。
雨足は次第に強くなっていきます。
そのため、私は午後の観光は諦め、自由広場前のカフェで、のんびりと過ごすことにしました。
コーヒーをすすり、チョコレートケーキを食べながら、本を読んだりします。
異国でのまったりとした午後、なかなか悪くないものです。
周りを観察すると、煙草を吹かしている老人や、喋くりあっているマダムの姿が見えました。
ばね仕掛けの人形を売る売り子たち
カフェには物売りが頻繁にやってきます。
新聞や時計、ボールペンやノート。彼らはそういった品々を人々のいるテーブルに置いて廻り、手に取る者がいないと見るや、それを回収して廻っていました。
こういう売り方、ルーマニアではよく見かけました。一度、売り物を勝手に見てもらうというやり方です。
置かれた時計やボールペンを手にして、興味を惹かれなかった場合は、元の位置に戻しておきます。
これなら、買う側もしつこく売り込まれることもないし、売る側も「モノ」に興味を持った人にだけ話をすればいいわけです。
売り子は、大人から子供までかなり幅広い年齢層がおりました。
コーヒーを飲んでいると、売り子のひとりが私のテーブルの上に奇妙な物を置きました。
「ばね仕掛けの人形」です!
「ばね仕掛けの人形」は、テーブルの上で、ビヨンビヨンと体を左右に揺らし続けています。
私はそれを見て、考え込んでしまいました。
これを買う人がいるのだろうか、これを売ることで商売になるのだろうか。
けれども、ルーマニアの旅を続けていくうちに、「ばね人形」は、けっしてマイナーな存在ではないということに私は気付かされました!
「ばね人形」は、結構流行っていました。
そうです。「ばね人形」を売っている売り子は彼ひとりではなく、たくさんの売り子が「ばね人形」を売っていたのです!
つまり、「ばね人形売り」が幾人もいるということは、「ばね人形」を売るということが商売として成り立っているということです。
となると、ここマラムレシュでは「ばね人形」を買う人間がそれなりに存在するということでもあります。
たぶん、あれは副業のひとつであると思うし、他にも収入源があるのでしょう。
けれども、よりによって、なぜ売る物が「ばね人形」なのか・・・。
ちょうどこの頃、マラムレシュでは「ばね人形ブーム」だったんでしょうか??
「シゲット」の街角にて。みんなに注目されます。
ロマの子供たちと店員のいたちごっこ
まったりとした午後のカフェ。
読んでいた本から顔を上げ、コーヒーを飲みながら店内をぐるりと観察してみると、私の目は店の入り口に留まりました。
そこには、「ロマ(ジプシー)」の子供が数人、たむろっていました。
にやにやと笑いながら店内を窺っている様子の彼ら。
何かが起こりそうな気配です!
彼らがちらちらとこちらを見ています。
ロマの子供たちは、珍しい東洋人である私に注目したようです。
恐らく、ターゲット決定です!
しばらくすると、ロマの子供のひとりが店に入ってきました。
私のところに一直線に近づいてきます。
卑屈なのか堂々としているのか、よくわからないような態度のロマの子供。
彼は私の目の前に立つと、何やらごちゃごちゃと言いながら手を差し出してきました。
お金をねだり始めたのです!
ロマの子供はしつこくお金を要求し続けます。
私はそれに対し、「ノーノー!」と首を振り続けました。
そのとき、店員が、その様子に気付きました!
店員は、大またでつかつかと近づいていき、そして、ロマの子供の前に立ちはだかると、もの凄い剣幕で追い払いました!
店員に怒鳴られるや否や、ねずみのように「ピューっ」と逃げ出すロマの子供。
かなりの素早さ、プロです!
ロマを追い払った店員は私に向かって、「失礼しました。困った奴らですよ、あいつらは・・・」みたいなことをルーマニア語で言いました。
私は、別にロマの相手をするのは嫌ではなかったのですが、 「いえいえ、どうもありがとう」 と一応、お礼をしておきました。
けれども、店員の勝利は一時的なものでした。
しばらくして店員が遠くに行ってしまうと、ロマの子供たちはまた、動き始めたのです。
ロマの子供が、再び私のところへ近づいてきます。
店員に気付かれないように、そ~っと、そ~っとです(笑)。
そして、またまた、お金をねだり始めます。
さっきと同じように、しつこく、しつ~っこく。
店員がその様子を再び見つけます。
「あのヤロ~!」っていう感じで、慌ててこちらに近づいてきて、すごい剣幕で、
「こらーっ!!」
ロマの子供は、店員が近づいてくるや否や、入り口のところまで「ピューっ」と逃げていきました。
そして、人を小ばかにしたように、顎を突き出して笑っています。
店員はもうカンカン!!
私はその様子を見て、何だか可笑しくなってきてしまいました。
そ~っと、そ~っと・・・。
手を差し出す。
「ノーノー」
「こらーっ!!」
「ピューっ」と逃げる。
顎を突き出してニヤニヤ・・・。
店員さんカンカン!!
延々と繰り返されるそのいたちごっこ。
それはトムとジェリーの漫画を彷彿とさせるような、やたらと愉快なものでした。
しばらくそんなカフェにおける人間ドラマを楽しんだあと、私は案内所でもらったマラムレシュの地図を取り出し、眺め始めました。
「シゲット」の周りにはいくつもの村が点在しています。地図には、この地方独特の木造教会の絵が村ごとに描かれていました。
田舎の民族衣装の人々と共に、美しい木造教会もマラムレシュの見所のひとつなのです。
私は数ある村の中でも、教会の絵が一番綺麗な「ブルサナ」(Barsana)というところに惹かれました。
カフェの人に聞くと、「ブルサナ」へは駅前のアウトガラからバスがあるといいます。
私はコーヒーの最後の一口をすすり、「ブルサナ」という地名に赤丸を付けました。
旅行時期:2003年5月