まだ平和だったアフガニスタン。少年時代のアミールとハッサンは強い絆で結ばれていた。
しかし、アミールの一つの過ちが2人の運命を冷酷に切り裂いてしまう。
その後、ソ連侵攻によりアミールはアメリカに亡命、ハッサンは田舎の村に逃れ、20年の歳月が流れていった。だが、アメリカで平穏に暮らすアミールの元にアフガニスタンの恩人から一本の電話が入る。ハッサンに対する後悔の念を残したアミールは、意を決してタリバン独裁政権下の故郷へと向かう。”君のためなら千回でも・・・”。ハッサンの信頼の言葉に応えるため、あのとき言えなかった気持ちを伝えるためにー
「君のためなら千回でも」パンフレット
ハッサンが残してくれた信頼に応えるため、タリバン政権下のアフガンへ
舞台は1970年代から2000年までのアフガニスタン、そして、アメリカ。
2000年のある日、サンフランシスコに住むアミールは幸せな時を迎えていました。
念願だった自分の小説がついに出版されたのです。
妻と一緒に喜びに浸るアミール。
しかし、その同じ日、一本の電話がかかります。
電話の主は、彼の故郷アフガニスタンでの恩人、ラヒム・ハーンでした。
1979年、ソ連軍がアフガニスタンに侵攻しました。
その時、彼は父親と共にアフガンからアメリカへと逃れます。
それ以後、彼はアフガンでの記憶を心の奥底に閉じ込め続けてきました。
アフガンに居た当時、彼はまだ子供でした。
その子供時代に彼は決して忘れることのできない過ちを犯します。
一番大切な存在だった、召使であり友人でもあったハッサンを裏切ったという過ちです。
アミールは、この電話により、その記憶が蘇りました。
そして、ラヒム・ハーンに促されたアミールは、少年時代の過ちを償うため、アフガニスタンの首都カブールへと潜入することとなります。
アメリカ空爆前のアフガン、タリバン政権下の危険なカブールです。
この映画は、アフガニスタンという国の悲惨さや、戦争の愚かしさなどをダイレクトに謳った作品ではありません。
この作品のメインテーマは、「一人の人間の過ちと、それに対する償い」
この映画は、アフガンという過酷な場所を舞台としながらも、全ての人に通じる普遍性を持った物語なのです。
1970年代のカブール。どこの世界にもある日常を通じて次第に感情移入していく
物語は、サンフランシスコの一本の電話から、一気に1970年代のアフガンの少年時代へとタイムスリップします。
スクリーンに映し出される平和なアフガンの日々。
アミールとハッサンの穏やかな日常、作品前半のハイライトとも言える凧揚げ大会での2人の友情、そして、友情の亀裂、別離・・・。
1970年代のカブールを舞台に、それらのドラマが鮮やかに描かれていきます。
観客は、どこの世界にもあるそんな2人の物語に没入し、次第に感情移入していくようになります。
アフガンという見知らぬ地における傍観者としてではなく、自らの分身としてアミールを見ていくようになるのです。
また、そのドラマの中に被差別民族であるハザラ人への差別や、主人であるアミールと召使であるハッサンの立場の違いなど、アフガンの状況もうまく盛り込まれています。
後半の大人になったアミールがアフガンを訪れる際のエピソードでも、タリバン政権下の状況がリアルに表現されています。
孤児院に残された子供たちの悲惨極まりない状況、スタジアムでの公開処刑などなど・・・。
そして、この頃には私たちは、それらの出来事を見て心を痛めるアミールと一心同体になっているのです。
カブールに住む実際の少年達の中から選ばれたメインキャストたち
この作品は、アフガニスタン出身のカーレド・ホッセイニの小説が原作となっています。
同作は30数カ国で計800万部以上を売り上げる国際的ベストセラーとなったそうです。
監督は「チョコレート」や「ネバーランド」を手掛けたマーク・フォスター。
脚本はデイヴィッド・ベニオフです。
主演のアミール役は大人時代が、「ユナイテッド93」でテロリスト役を演じたハリド・アブダラ。複雑な葛藤を持った役柄をうまく演じています。
少年時代のアミールが、ゼキリア・エブラヒミ、ハッサンがアフマド・ハーン・マフムードザダ。
この2人はカブールに住む実際の少年達の中から選ばれたのだそうです(他の多くのキャストもカブールのアフガン人から選ばれています)。
アミールの父親役がホマユーン・エルシャディ。彼はアッバス・キアロスタミの「桜桃の味」で注目を浴びた俳優。
父親の威厳と優しさの表現が見事です。
作品は、作者のカーレドと協力し、できるだけ原作に忠実になるように作られたのだそうです。
そのため、映画のセリフはアフガニスタンの主要言語のひとつである、ダリー語が使われています。
ロケ地は、中国新疆ウイグル自治区のカシュガルなどです。
この映画は1970年代の平和なアフガンから、ソ連の侵攻、そして、タリバン支配までのアフガニスタンが描かれているのですが、現在は、911テロによるアメリカの空爆、タリバン政権崩壊など、状況はずいぶんと変わってきています。
それにしても、子供時代におけるアミールとハッサンの友情のシーン、凧揚げ大会のシーンは素晴らしかったです。そして、ラストも・・・。
涙なしでは観れない作品。
ほんと、涙をこらえるのに苦労しました・・・。
五つ星です!
この映画、原題は「The Kite Runner」というそうです。
けれども私は、劇中の一番キーとなるセリフを使った、邦題の「君のためなら千回でも」の方が、この映画にはマッチしているような気がします。
キャスト
アミール(青年時代):ハリド・アブダラ
アミール(少年時代):ゼキリア・エブラヒミ
パパ(アミールの父):ホマユーン・エルシャディ
ハッサン(少年時代):アフマド・ハーン・マフムードザダ
スタッフ
監督:マーク・フォスター
脚本:デイヴィッド・ベニオフ
原作:カーレド・ホッセイニ
コメント