『草原の河』"6歳の少女の目線で描かれた生と死、家族のつながり"【映画】

『草原の河』”6歳の少女の目線で描かれた生と死、家族のつながり”【映画】

草原の河【映画】 エスニック映画館
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お父さんはお祖父ちゃんが嫌いなの?

チベットのソンタルジャ監督、劇場初公開作

映画「草原の河」HP

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日本で初めてのチベット人監督による劇場公開作品『草原の河』

空と大地が果てしなく広がるチベットの風景の中、娘とその父、母、祖父の三世代に渡る家族の生活、人間模様、そして、生と死が、6歳の少女の目線で描かれていく。

映画『草原の河』は、チベットの家族とそれぞれの心情を描いたヒューマンドラマ。日本で初めてのチベット人監督による劇場公開作品です。

 

映画の舞台は、青海省海南チベット族自治州、青海湖の南部に位置する同徳県。

「アムド」と呼ばれる地域で、標高は約3,060m。日本人がイメージする“草原のチベット”を最も感じさせてくれる地域です。

監督は、チベット人監督のソンタルジャ。映画『草原の河』は彼の長編二作目の作品で、同作品は2015年ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門でのワールド・プレミアで紹介された後、各国の国際映画祭で上映され、高い評価を受けました。

草原の河【映画】映画の舞台は、青海湖の南部に位置する同徳県

「アムド」に暮らすチベットの典型的な牧畜民であるヤンチェンの一家。

物語は、冬の終わりから秋の初めにかけて、彼らの約一年の暮らしの中で起こった出来事を描き出しています。

一家は寡黙な父親「グル」としっかり者の母「ルクドル」、2人の娘「ヤンチェン・ラモ」の三人家族。

そして、もうひとり。村から離れた洞窟でひとり仏教の修行に励むヤンチェンの祖父(グルの父親)が映画のメインキャラクターです。

 

映画の本筋は、監督のソンタルジャによると2つあるようです。

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ヤンチェン・ラモが見つめる「生」と「死」

ひとつは、お腹の赤ちゃんと子羊に対するヤンチェンの思い。

ヤンチェンは、6歳にもなるのにまだ、母親ルクドルからの乳離れができていない甘えん坊なのですが、ある時、母ルクドルのお腹に赤ん坊が出来たということを知らされます。

母ルクドルの話では、父グルが願いを叶える宝石「天珠」を拾ったため、赤ん坊が出来たのだとのこと。

自分に対する母の愛情が、生まれてくる赤ん坊に奪われてしまう。

そう不安になったヤンチェンは、家の祭壇に飾られていた「天珠」をどこかに隠してしまいます。

 

また、一家は母羊を亡くした子羊を家で世話することとなり、ヤンチェンは、子羊に「ジャチャ」と名前を付けて可愛がります。

子羊ジャチャは成長し、群れに返されることとなるのですが、ある時ジャチャは群れからはぐれ、行方不明になってしまいます。

父グルは、ジャチャが狼に殺されたことを見つけてしまいますが、母ルクドルと相談し、ヤンチェンには黙っていることにしました。

けれどもある時、ヤンチェンは草原の中で死んでいるジャチャを偶然発見。彼女はショックを受け、しばらく喋らなくなってしまいます。

 

これから生まれてくる赤ん坊と、狼に殺されてしまったジャチャ。

スクリーンの前の観客は、ヤンチェンの目を通して、「生」と「死」というものを実感していきます。

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祖父、父、娘、三世代のつながり

もうひとつは、グルの親(ヤンチェンの祖父)に対する思い。

寡黙なグルは、自分の父親に対して強いわだかまりを持っています。

何でも、亡くなったグルの母が危篤だった時、グルの父は仏教の修行のためという理由から死に目に立ち会うことをしなかったのです。そのことを息子であるグルは許せないでいたのです。

体調を崩した父を見舞うため、町の病院へと向かうグル。

父と話すことに気が進まないグルは、ヤンチェンを連れていき、ヤンチェンに父を見舞わせます。

 

ラストのシーン、草原の中を流れる河のほとり、ヤンチェンと祖父が並んで河を眺めています。

その少し離れた後ろで、彼らの姿を遠巻きに見ているグル。

その目からは涙が頬を伝っていました。

 

たとえ過去にどんな確執があろうとも、そこには、血を分けた三世代の分かち難い繋がりがありました。

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監督に「天性のものを持っている」と言わしめたヤンチェン・ラモの演技

主演の6歳の少女「ヤンチェン・ラモ」(本名での出演)は、ソンタルジャ監督の遠い親戚だそうで、演技経験はなく、本作が初出演作であるのだとのこと。

撮影はほぼ1テイクOKで、監督に「天性のものを持っている」と言わしめたそうです。

そんな彼女、6歳とは思えないような自然な演技が注目され、上海国際映画祭2015において史上最年少で最優秀女優賞を受賞したのだとか。

 

まだ何も知らない幼い少女ヤンチェン。日々生きていく中で様々な出来事に出くわします。

生まれてくる赤ん坊の存在に不安になり、ジャチェの死にショックを受け、父と祖父の確執が理解できず、父と母の嘘(ジャチェが死んだことを黙っていた)に心掻き乱され、村の悪ガキたちに「お前の父親は親の面倒を見ない悪い奴だ」と詰られ涙を流し・・・。

残酷な自然。納得のできない大人の世界。

それらを見つめ、受け入れていく少女の眼差し。

 

雄大な風景の中、ヤンチェンの自然そのものの演技が心に響きます。

素晴らしい作品です。

キャスト

娘ヤンチェン・ラモ   :ヤンチェン・ラモ
父親グル        :グル・ツェテン
母親ルクドル      :ルンゼン・ドルマ

スタッフ

監督・脚本    :ソンタルジャ

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