ラダック地方(Ladakh:ལ་དྭགས་)は、インド北西部、ジャンムー・カシミール州のヒマラヤ山脈に囲まれた高地にあります。
ここはチベット文化の西の端。インド領であるラダックは、中国のチベット本土よりも、その伝統文化が色濃く保持されているといわれている場所です。
今回は、チェムレ・ゴンパです!
岩山全体が僧坊と化した「チェムレ・ゴンパ」は、とってもフォトジェニック!
「スタクナ・ゴンパ」から更にインダス川沿いに南西に15キロほど。
そこから枝分かれした街道を北東へしばらく向かうと「シャクティバレー」はあります。その「シャクティバレー」の中ほど、チェムレ村で私はミニバスを下車しました。
そして、畑やポプラの木々が生える一本道をぶらぶらと歩いていくと・・・。
岩山がまるごと僧房と化した、まるで山岳都市のようなゴンパが見えてきました。
「チェムレ・ゴンパ」(Chemrey Gompa)です。
一本道をゴンパへと向かって歩いていきます。
次第に近づいてくる迫力のあるゴンパ。壮観です。
「チェムレ・ゴンパ」は、高さ約140メートルの岩山の上に建てられたゴンパ。17世紀半ばの創建、カギュ派のゴンパです。
とてもフォトジェニックなゴンパなのですが、観光客の姿はほとんどありません。
村には宿も食堂も一切ありません。
ふもとのチェムレ村は、インダス川の支流が流れているため緑に溢れています。
荒涼とした鉱物世界を歩いてきた旅人にとって、木々の緑はまさにオアシス。
緑があるというだけで、辺りの空気がやわらかみを帯びてくるかのようです。
「チェムレ・ゴンパ」
収穫を終え農閑期を迎えた畑は色彩を失い、周りを取り囲む岩山に溶けていきます。
もうしばらくすると、厳しい冬が始まるのでしょう。
岩山の上の僧房へ、えんやこらと登っていきます。
標高3500メートルでの山登りはかなりの難作業。息も絶え絶えに登っていきました。
岩山を登りきり、ゴンパの中に入ると、老僧と小僧が現れました。
穏やかな表情をした彼らは私を温かく迎え入れ、いくつかのお堂を案内してくれました。
このゴンパには約300人の僧が所属、50人ほどが常駐しているのだそうです。
壁に掛けられたヤギの剥製。 魔除けです。
古色蒼然とした堂内でおもむろに読経を始める老僧
古色蒼然とした堂内でぼんやりと壁画を眺めていると、どこからか老僧がひとりやってきました。
老僧は、どっかりと腰を降ろします。 そして、おもむろに読経を始めました。
薄暗い堂内、誇りっぽく乾いた空間、抹香の匂い。
僧の口から紡ぎ出される静かでうねるような読経の声・・・。
蝋燭の灯りがゆらゆらと揺れています。
荒涼たる岩山に響き渡る僧たちのラッパ
「チェムレ・ゴンパ」の屋上に昇ると、付近の荒涼たる岩山が見渡せました。
「シャクティバレー」はラダックの中でも緑が多い方の地域ですが、それでも風景の大半を鉱物的な景観が覆っています。
私を案内してくれた老僧と小僧が、屋上の一段高い庇の上に上りました。
そして、おもむろに手元から銅製の細長いラッパを取り出します。
息を吸い込み、思い切り吹きます。
「ブォ~ッ・・・」
素朴な音がラダックの硬質な空気を震わせます。
「ブォ~ッ・・・」
一生懸命吹く、ふたりの頬っぺた。
「ブォ~ッ・・・」
ラッパの音は、荒涼とした大地にどこまでも拡散していき、 そのうち、天上に広がる空の中に吸い込まれていってしまいました。
旅行時期:2003年9月