世界唯一の定期外輪船「ロケット・スチーマー」でバングラデシュの川をクルーズ

ロケットスティーマー バングラデシュ エスニックな旅
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ガンジスの河口に広がるデルタの国「バングラデシュ」(Bangladesh:বাংলাদেশ)

バングラデシュとはベンガル人の国の意味。カルカッタ(コルカタ)のあるインドの西ベンガル州と民族や文化は同じです。

人とリキシャでごった返すダッカの町と、川の国「バングラデシュ」の船旅をご紹介します。

今回は「ロケット・スチーマー」のご紹介です!

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世界唯一の定期外輪船「ロケット・スチーマー」に乗る(チケット予約と購入)

ロケットスティーマー バングラデシュ世界唯一の定期外輪船「ロケット・スチーマー」

 

バングラデシュに行ったら絶対に乗ってみたいと思っていたのが、これ。

「ロケット・スチーマー」です。

首都「ダッカ」から南部の様々な町を経由して南西部の「クルナ」へと向かう定期航路。世界唯一の定期航路の「外輪船」だそうです!

 

「外輪船」とは、船の両脇に巨大なパドルがあり、それを回転させ水をかき回しながら進む船のこと。観光用としては、ディズニーランドでも運行していますが、定期航路だとこの「ロケット・スチーマー」だけ。

ダッカからクルナまでは約26時間の行程です。同じ行程をバスで行くとたったの8時間ですが、川の国であるバングラデシュを移動する手段としては、やっぱり船がふさわしいです。

「ロケット・スチーマー」のチケットは、ダッカのモティジールの「BIWTC」(Bangladesh Inland Water Transport Corporation)のオフイスに行って予約し、チケットを購入しなければなりません。

【BIWTC】
Adress:Bangladesh Inland Transport Corp (BIWTC) 5 Dilkusha, Dhaka
TEL:+88-02-9559779
Business hours:Sunday~Thursday 9:30 am ~ 5:00 pm

オフィスの場所は、ビーマンバングラデシュ航空のオフィスの隣のビルの2階。場所を探すのだけでひと苦労。

私は、土曜日の夕方に出発する船のチケットを購入しました。

船には1等船室、2等船室、3等があって、1等は二人部屋で部屋にクーラーが付いています。2等はクーラーなしの二人部屋。3等は雑魚寝です。

私は1等船室のチケットを購入。料金は1005TK(2010円)でした(2004年当時)。

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ダッカ出航!クルナへ

ロケットスティーマー バングラデシュ夕方、ダッカ出航!

 

夕方、ダッカの港「ショドル・ガット」にあるBIWTCの乗り場に行き、「ロケット・スチーマー」に乗船します。

外観からしてかなり古い船。話によると1935年に建造された船だそうです!

船底からは、エンジン音が響いてきます。

「ロケット・スチーマー」の動力源はディーゼル機関。けれども、1990年代まではその名の通り蒸気機関で動いていたのだそうです。

 

「ボォ〜」

汽笛が鳴りました。さあ、出航です!

ロケットスティーマー バングラデシュ

ロケットスティーマー バングラデシュ夕暮れのダッカの街を眺めながら岸辺を離れる

 

夕暮れのダッカの街、ちょうど夕方の礼拝の時間。

街の方々から礼拝の呼びかけ「アザーン」の声が聴こえてきます。

1等船室では、船首にあるデッキを利用することができます。デッキにはいくつか椅子があって、私はそこに座り、離れゆくダッカの街の風景を眺め続けました。

ロケットスティーマー バングラデシュブリコンガ川を行き交う船

 

デッキに座り、ダッカの生暖かい風を浴びながら、流れ行く風景を眺めます。

港を離れ、コンビナートの並ぶ重工業地帯を通り、次第に風景は郊外から田園へ。そして、辺りはじょじょに暗くなっていき、灯りの姿もまばらになってきました。

 

「ロケット・スチーマー」は、古い船ですし、スピードはあまり速くありません。

新型のフェリーにいく度も追い越されて行きました。

その度に向こうの船から歓声が挙がります。

ちょっと、くやしい。

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「ロケット・スチーマー」の1等船室

ロケットスティーマー バングラデシュ1等船室の船内

 

「ロケット・スチーマー」の1等船室はこんな感じです。

ロケットの船室は3つの等級に分かれています。1等、2等、そして、3等です。

船に入るとまず、広いフロアーが現れます。真ん中には軽食や飲み物などを販売する売店があり、そのフロアー全体が3等の寝床となっています。

売店を囲んで足の踏み場もないほどぎっしりと床に横たわっている3等船室の人々。ちょっと圧倒させられます。

3等船室の脇にはいくつもの小部屋があります。

中を覗くと狭い部屋にボロボロのベッドが2つあります。狭いけどベッドがあって個室。これが2等船室です。

そして、人々でごった返す船内の雑踏を抜け船の前部へと向かうと、重厚な扉があります。

開けると、そこは別世界でした。

扉に遮断された空間では、高級そうな制服を着た船室係がいて、木目調の落ち着いたロビー兼食堂があって、雄大な川の風景を180度の視界で眺めることが出来るデッキがありました。

1等船室利用者だけに許された優雅な空間です。

私の船室は2人部屋でした。ロビー兼食堂に比べ、1等の船室はそれほど豪華な部屋というわけではなく簡素。

ベッドが2つ、共同の洗面台がひとつ、川に面して2つの窓があります。この窓は開閉可能のガラス窓です。そこに日除けのカーテンが掛かっています。

それぞれのベッドサイドには読書灯が、頭上には扇風機がぐるぐると回っています。

けれども、床は綺麗に掃除されていたし、ベッドの上に掛かったシーツや枕カバーは真っ白に輝いていたし、備え付けのミネラルウォーターのボトルもありました。充分です!

ロケットスティーマー バングラデシュロケットから眺める川と船

 

電気を消した真っ暗な部屋で、ベッドに横になりながら窓から見える川の暗がりを薄ぼんやりと眺めます。

隣に寝ているのは髭面の真面目そうなおじさん。警察官だそうです。

ダッカから故郷のボリシャルに帰る途中なのだと言っていました。きっちりとした黒ジャケットを着て、馬鹿でかいスーツケースを持っていました。

船はガタガタと小刻みに揺れています。空は雨雲に覆われているようで、星が全く見えません。雨が降ったり止んだりしていました。

時折雷がゴロゴロと鳴り、そして、稲光の閃光が真っ暗な部屋を一瞬青白く照らし出し、空には鮮烈な光の模様が現れます。そして、その稲光の模様が余韻を残し消え去った後、しばらくすると再び閃光がきらめき、空に違った模様を描き出すのです。

延々と繰り返される稲光の姿を眺めているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちてしまいました。

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一夜明けると、そこには川の風景が!

ロケットスティーマー バングラデシュロケット・スチーマーから見た漁をする小舟

 

空の色は白々としていて、屋根を叩く雨粒の音が聞こえてきます。窓の外には泥色の川がゆるゆると流れ、その水面には雨滴の作り出す無数の波紋が浮かび上がっていました。

しとしと雨は糸のように降っていて、河岸の緑は淡い乳白色の靄に包まれています。風景はゆっくりとしたスピードで後方に流れていきます。

部屋を出てデッキへと向かいました。誰もいないデッキからは180度のパノラマが見渡せます。私はそこにいくつも並んでいるプラスチック製の白い椅子に腰掛けました。

朝です。

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ボリシャルの街に到着

ロケットスティーマー バングラデシュボリシャルの街に架かった二重の虹

 

船はボリシャルに到着しました。港に停泊するいくつもの船や、ごちゃごちゃと雑然とした街並みが河岸に見えます。

リキシャのベルやベビータクシーのクラクションの音が、人々のざわめきが聞こえてきます。ボリシャルは大きな町です。

船が港に接岸すると、多くの乗客が降り始めました。同室の警察のおじさんも、でかいスーツケースを抱えながら降りていきます。

次第に1等船室は空室になっていきました。

ロケットスティーマー バングラデシュ3等船室の様子

 

重いドアを開け、3等船室のフロアーを覗いてみました。ぞろぞろとタラップへと向かう群集の連なりが見えます。

どうやらこの船はダッカからボリシャルまでの区間がメインのようです。ほとんどの人が降りていきます。

そして、そのうち船は、がらんどうになってしまいました。昨日までの混沌はどこへやら。すっきりとした広い空間に川風がゆるりと通り抜けます。昨日の夜とは船の様子が全く変わってしまいました。

ロケットスティーマー バングラデシュ途中、寄港した村の風景

ロケットスティーマー バングラデシュダッカからの帰省者との再会

 

名も知れぬ村に到着しました。緑の椰子の森の中にトタンの屋根の家が並ぶ小さな集落です。

人々が船を降りていきます。ダッカから帰省する夫や息子を待つ家族や、船の乗客に果物やお菓子を売ろうとする物売りたちが桟橋に待機していました。

私も一旦船を降りてみました。岸辺からロケットの外観を眺めてみようと思ったのです。

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ロケット・スチーマーの外観と内部

ロケットスティーマー バングラデシュロケット・スチーマーの外観

 

ロケット・スチーマーの外観。

外観はかなりボロボロ。1935年の建造です。

ロケットスティーマー バングラデシュロケット・スチーマー、外輪船のパドル

 

これが外輪船のパドル。これをぐるぐると回転させて進みます。

船足はかなり遅いです。

ロケットスティーマー バングラデシュ1等船室とデッキ

 

2階にカーテンの付いた窓があります。あそこが1等船室。

あそこで丸二日過ごしました。

ロケットスティーマー バングラデシュロケット・スチーマーの屋根

 

ロケット・スチーマーの屋根。

だだっ広い泥色の川と緑の椰子が生い茂る岸辺が見えます。

雄大なベンガルの風景です。

ロケットスティーマー バングラデシュロケット・スチーマーの機関室

 

船員が機関室に案内してくれました。動力はディーゼル機関。

1996年までこの船は蒸気機関で動いていたというのだから驚きです。

ロケットスティーマー バングラデシュ船長室と船長さん

 

こちらは船長室。

カメラを構えると、船長さん、照れ臭そうに舵を切る真似をしてくれました!

親切でサービス精神旺盛な船長さんでした。

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外輪船に揺られながら、川の国「バングラデシュ」の風景を眺めます

ロケットスティーマー バングラデシュ黄金のベンガルの風景

 

「ロケット・スティーマー」から眺めたベンガルの風景です。

緑溢れるベンガルの豊かな風景。エメラルドグリーンに輝く常緑樹が河岸に生い茂り、黄緑色の水田がどこまでも広がっています。

その緑のキャンバスの上には赤やオレンジの原色のサリーを纏った女性たちが花のように咲いていました。彼女たちは農作業をしているのです。

ロケットスティーマー バングラデシュ緑の田園と泥色の川、そして、 船

 

白いこぶ牛が荷車を引いています。鮮やかな色をした鳥が空をキーキーと鳴きながら羽ばたいています。

河岸には多くの人々の姿がありました。洗濯をする人、水浴をする人、用を足す人。

ロケットスティーマー バングラデシュ漁をする小舟

 

茶色の川は静かに滔々と流れていきます。川面には小さな帆を張った小舟がいくつも漂っていて、どの舟も長い櫂を泥水に刺し込んでいます。

あっ! 網が投げ入れられました。漁です!

川の恵みによって生活する人々。その原初的な漁の姿はとても美しいものでした。

ロケット・スチーマーは、そういった漁師の操る小舟と幾度となくすれ違い、また追い越していきます。

ロケットスティーマー バングラデシュまた雨が降ってきました。

 

先ほどまで降っていた雨が上がりました。

雲間から青い空が覗き、眩しい陽光がさんさんと降り注いできます。けれども、すぐにまた空は曇り、再び、ぽつぽつと雨が降り始めました。そして、そのうち雨は一気に土砂降りとなってしまいました。

視界をスコールの雨滴が遮り、川面が嵐のように波立ちます。

でも、それも長くは続きません。不意に雨は止みます。そして、再び青空と強烈な太陽が顔を覗かせるのです。

雨上がりの空にはしばしば虹が架かります。はっきりとした七色の綺麗なアーチです。この時ベンガルの空には二重の虹が架かりました!

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夕暮れの川の風景

ロケットスティーマー バングラデシュ夕暮れの川の風景

 

いくつもの村を通り過ぎ、いくつもの船を追い越しすれ違い。

空が曇り、雨が降っては晴れ、また曇り。

日が沈み、そして昇って、また沈み。

地球という星の営みを感じる、そんなひとときです。

ロケットスティーマー バングラデシュ河岸の村の夕暮れ。人々は船に向かって手を振ってくれる。

 

辺りが薄紫色の闇に包まれ始める頃、方々から白い煙がゆらゆらと漂い始めてきました。

夕餉の支度です。

ゆらゆらと棚引くその煙は、私の心を何だかとても温かくしてくれました。

ロケットスティーマー バングラデシュ

ロケットスティーマー バングラデシュ夕暮れのベンガルの風景

 

そのうち、日が沈み、川と川岸の森と田園は闇に包まれます。そして、ぽつんぽつんと点在する家々の灯りだけが闇の中に浮かび上がり始めます。

あの中にはささやかだけども温かい、ベンガルの家族の暮らしがあるのでしょう。

 

延々と繰り返す輪廻のような自然の営み。そして、自然と共に生きる人々の日常。

そんなバングラデシュの「心」とも呼べる風景を、私はロケットのデッキの上から飽きることなく眺め続けていました。

ロケットスティーマー バングラデシュ夕暮れの舟たち

 

ロケット・スチーマーでの船旅は素晴らしいものでした。

船室係のおじさんは操舵室とエンジンルーム、そして、屋根の上にある見張り台まで見せてくれたし、船内で出される朝食のオムレツやディナーのカレーはとても美味でした。

雄大な風景を見ながら聴く音楽は心地よかったし、読んでいる本からふと顔を上げた時、目に飛び込んでくる降るような陽の光はこの上なく美しいものでした。

ロケットスティーマー バングラデシュ

夜8時。船はバングラデシュ第3の町、クルナに到着しました。

オレンジ色の薄明かりに照らされたクルナの港。その雑然とした風情が今でも目に焼きついています。

 

私は船を降りると、さっそくやって来たリキシャと交渉を始めました。そのうち話がまとまり、私はリキシャの荷台に飛び乗ります。

運ちゃんがペダルをゆっくりと漕ぎ始めました。そして、リキシャのキラキラとしたベルの音を聞きながら、私は真っ黒な夜の闇の中に溶けるように入っていきました。

 

旅行時期:2003年8月

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