世界はリズムであふれてる!
青春!音楽!衝動!この鼓動は止められない!
歌って、踊って、演奏して魂のリズムはそこ、ここにーー
南インド料理店『なんどり』が配給するタミル映画
映画『響け! 情熱のムリダンガム』予告編 2022.10.1公開
2018年2月公開のインド・タミル映画「響け!情熱のムリダンガム」(原題「Sarvam Thaala Mayam」)
南インド伝統音楽の打楽器ムリダンガムに魅せられた主人公が、身分の差がありながらも巨匠に弟子入りを果たし、様々な障害と立ち向かいながら、自分の音楽世界を開拓していく物語。
南インド伝統のカルナータカ音楽の魅力を余すところなく伝えているほか、カーストによる差別や伝統音楽の継承などの社会問題も織り込んだ本作は、2018年の東京国際映画祭で上映され、多くのインド映画ファンの心を掴みました。
そんなファンのひとり(ふたり)が、荒川区の南インド料理店『なんどり』の店主ご夫妻。
お店の開店当初からインド映画の魅力をPRする活動を続けてきた店主ご夫妻ですが、この映画「響け!情熱のムリダンガム」の魅力にハマり、クラウドファウンディングの力も借りつつ、ついに映画の配給権を購入!
2022年10月1日の渋谷シアターイメージフォーラムを皮切りに順次全国上映される運びとなったのです。
この太鼓、すげえ!映画スター推しからムリダンガム推しへ
※ここからはちょっとネタバレ含みます。
映画の舞台は、インド・タミルナードゥ州の州都チェンナイ。
主人公のピーター・ジョンソン(G.V.プラカーシュ・クマール)は、南インド伝統音楽の打楽器「ムリダンガム」職人を父に持つ学生です。
けれども、ピーターは、映画スター「ヴィジャイ」の“推し活”(ファンクラブ活動)に情熱を注いでおり、学校の試験を途中で抜け出し、ヴィジャイの映画の初日初回公開を観に行ってしまうなど、学業はそっちのけ。
↓の動画は、ピーターがヴィジャイの映画の公開を祝う場面で流れるエントリーソング「Peter Beatu Yethu」です。
Peter Beatu Yethu
“推し活”にうつつを抜かすピーター。その姿に両親は嘆き、ひょんなことで知り合い、ピーターが恋心を抱くようになる看護師のサラ(アパルナー・バーラムラリ)も呆れてしまっている状況でした。
↓の動画は、ピーターがサラに恋心を抱くシーンで流れるラブソング「Maya Maya」
Maya Maya
そんなピーターに転機が訪れます。
ある日、ピーターは父の作った楽器「ムリダンガム」を届けにコンサート会場に行った時、巨匠であるヴェンブ・アイヤル(ネドゥムディ・ヴェーヌ)が演奏する様子を見てしまったのです。
あまりの演奏のすごさに感動してしまうピーター。
この時から彼は、“ヴィジャイ推し”から“ヴェンブ(ムリダンガム)推し”へと変わったのでした★
ムリダンガムを巨匠ヴェンブからどうしても習いたいピーター。ヴェンブに弟子入りを懇願するものの門前払い。けれども、持ち前の情熱によって何度もアタックし、なんとか弟子入りを果たすことになります。
↓の動画は、弟子入りを懇願するシーンで流れる楽曲「Varalaama」
Varalaama
裏切り、破門、明かされる出自、そして、リズムを探す旅へ
入門を許され、ヴェンブの下でムリダンガムの修行に明け暮れるピーター。熱心に練習を重ね、徐々にヴェンブの信頼を勝ち取っていきます。
しかしながら、彼には様々な障壁や困難が降りかかってきます。
兄弟子による執拗な嫌がらせ、同門の生徒からの裏切り、演奏家になることへの両親からの反対などなど。
結局、ピーターは、ヴェンブに破門を言い渡されてしまうことになります。
同門の生徒にそそのかされ、ヴェンブが敵視するテレビの音楽コンテスト番組「音楽の帝王」に出演してしまったのがその原因でした。
テレビショーの際の混乱により、警察に逮捕もされてしまったピーター。
釈放後、一旦、父とともに父の故郷の村に身を隠すことになりました。
初めて訪れた父の故郷は、太鼓作りの職人たちが暮らすダリット(不可触民)の村。
ここでピーターは初めて自分の出自を知ることとなります。
ちなみに、皮革を扱う楽器職人は不可触民であることが多く、ピーター・ジョンソンという名前も、キリスト教に改宗した不可触民であることを表しています。
↓の動画は、ダリットの村のシーンで流れる楽曲「Dingu Dongu」
Dingu Dongu
師匠を失い、その後、両親からも拒絶され、自暴自棄になってしまったピーター。
そんな彼を救ったのは、ガールフレンドのサラでした。
サラの言葉により、ピーターはバイクに跨り、旅立ちます。
インド中を巡ってリズムを探す放浪の旅へと。
↓の動画は、インドを巡る旅で流れる映画のメインテーマ「Sarvam Thaala Mayam」
Sarvam Thaala Mayam
このインド中を巡る放浪の旅、かなり心揺さぶられるシーンでした。
ピーターは、広大なインドの各地を訪れ、様々な地域や民族の伝統音楽と出会い、そのリズムを体感していきます。
映画のプログラムによると、旅で訪れた地域と民族は↓
- ジャンム・カシミール州 カシミール地方 山岳地帯
- カシミール地方 Bhand バーンド(楽師)達
- マニプール州 Pung Cholom プング チョーロム(太鼓のダンス)
- メーガーラヤ州 Khashi(カシ)族
- ミゾラム州 ミゾ族のバンブーダンス Cheraw(チェロウ)
- パンジャーブ州 バングラ
- ラージャスターン州 マンガニヤールたちの演奏とダンス
- ケーララ州 プーラム祭でのPancha Vadyam(パンチャ ヴァーディアム)とChenda Melam(チェンダメーラム)
美しい風景と、各地の民族それぞれの伝統文化が織り成すインドの多様性、そして、何より、この楽曲「Sarvam Thaala Mayam」がいいです!
ちなみに、本作の音楽監督は、「ムトゥ踊るマハラジャ」や「スラムドッグ$ミリオネア」の作曲により世界的名匠と呼ばれるようになった「A.R.ラフマーン」です。
観衆の心を揺さぶるリズム。感動のクライマックス
映画のクライマックスは、再びテレビの音楽コンテスト番組「音楽の帝王」。
師匠であるヴェンブと和解したピーターは、ヴェンブが見守る中、音楽コンテスト番組「音楽の帝王」の決勝で、かつて同門だったライバルと対決することとなります。
↓がそのシーンです。
音楽対決でピーターが叩いたリズムは、師であるヴェンブから学んだ伝統的な古典のリズムではなく、ピーターが旅の途中で出会ったインド中の民族のリズムでした。
従来の伝統音楽を超えたピーターのリズムに観客は酔いしれ、いつしか敵役である兄弟子達もその音色に自然と笑みが溢れてしまうようになります。
それを見て、ヴェンブは、静かに会場を後にします。
伝統を超え、新たな音楽の境地を見出したピーター。そんな彼をヴェンブは自らの後継者と認めたのでした★
実際のカルナータカ音楽家を多数起用
Makelara Vichaaramu
プログラムの解説によると、この映画「響け!情熱のムリダンガム」は、南インド古典音楽(カルナータカ音楽)の実像が忠実に描かれた、これまでにない映画なのだとのこと。
映画を彩る脇役には、実際のカルナータカ音楽家が多数起用され、その演奏も紛れもない本物。エンディングロールで流れる楽曲「Makelara Vichaaramu」(↑の動画)で、ピーターのムリダンガムを伴奏に歌っているのは、第85回アカデミー歌曲賞にノミネートもされた人気女性声楽家「ボンベイ・ジャヤシュリー」です。
さらに、コンサートのシーンでは、チェンナイにあるカルナータカ音楽の殿堂「ミュージック・アカデミー」で撮影が行われ、観客としてカルナータカ音楽家が多数カメオ出演していたり。
ちなみに、この「ミュージック・アカデミー」、自分は行ったことがあって、ここでインド伝統舞踊「バラタナティヤム」を鑑賞しました。
本作品の監督、ラージーヴ・メーナン監督によると、この映画は、リズム楽器職人の人々の願望や夢の物語であり、夢を信じて追いかける勇気をくれる映画、社会で負った傷を癒す“音楽の力”を描いた映画であるとのこと。
夢への情熱、師匠と弟子の師弟愛、差別や伝統への問題提起、感動のクライマックス。
南インド料理店『なんどり』の店主ご夫妻が魅力にハマったのも頷ける、素晴らしい映画でした★
キャスト
主人公 ピーター・ジョンソン: G.V.プラカーシュ・クマール
ヒロイン サラ: アパルナー・バーラムラリ
師匠 ヴェンブ・アイヤル: ネドゥムディ・ヴェーヌ
主人公につらくあたる兄弟子・マニ: ヴィニート
スタッフ
原作・監督:ラージーヴ・メーナン
音楽監督:A.R.ラフマーン
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