南インド、タミル・ナードゥ州の州都チェンナイで、インド古典舞踊「バラタナティヤム(Bharata Natyam:பரதநாட்டியம்)」を鑑賞しました★
インドは古典舞踊大国です。
インド文化省が設立した音楽や舞踊、演劇の国立アカデミーである「サンギート・ナタック・アカデミー(Sangeet Natak Akademi)」では、8つの舞踊(バラタナティヤム、カタック、クチプディ、オリッシー、カタカリ、サトリヤ、マニプリ、モヒニヤッタム)をインド古典舞踊と定義しています。
いずれの古典舞踊も、紀元3世紀頃書かれたとされる、サンスクリット語で記されたインド古典劇に関する演劇論書「ナーティヤ・シャーストラ(Nāṭya‐śāstra)」をその理論と実践の原典としており、その理論は、ヒンドゥー教の神々への奉献を目的として書かれていることから、すべてのインド古典舞踊はヒンドゥー教がベースとなっているのだとのこと。
「バラタナティヤム」は、そんなインド古典舞踊の中でも、世界的に最もよく知られ、演者数も多い、インドを代表する古典舞踊です。
今回、そのメッカでもあるチェンナイのホールで公演を観賞してきましたので、ご紹介します★
公演が行われた「ザ・ミュージック・アカデミー」
公演が行われた「ザ・ミュージック・アカデミー」
バラタナティヤムの公演は、チェンナイの「ザ・ミュージック・アカデミー(TTK Auditorium)」というホールで鑑賞しました。
「ザ・ミュージック・アカデミー」は、チェンナイ市内のメインの大通りであるカテドラル通りとモーブレーズ通りのぶつかる大きな交差点沿いにある白い大きな建物です。
実は、この「ザ・ミュージック・アカデミー」には、20年前訪れたことがあって、その時も「バラタナティヤム」の公演を鑑賞しました。
その時の記事はこちら↓
20年前は小さな古びたホールだったのですが、この20年の間に改修が行われたようで、かなり立派になっていました。
「ザ・ミュージック・アカデミー」のチケットカウンター
チケットカウンターでチケットを購入します。
座席は、料金が高い順に、1階の前方席、後方席、2階席の3カテゴリーの座席があり、今回は1階後方席のチケットを購入。料金はRs.1,300(1,956円)です。
チケットを購入後、さっそく会場の中へ。
1,600人は入れるという客席は7割ぐらいの入り。客層はインドの下町にいる人たちとは全く違う、明らかに上流そうな、洗練された身なりをした人ばかりで、女性は美人が多い印象。欧米人や日本人の姿もちらほらありました。
18時開演ということだったので、急いで来たのですが、ステージでは主催者や来賓の挨拶が延々と行われている状況。。。
この日は2020年新年最初の公演だったので、新年の挨拶が長かったのかもしれません。
バラタナティヤム(Bharata Natyam:பரதநாட்டியம்)の歴史
バラタナティヤムの公演が始まりました♪
19時過ぎくらいに来賓挨拶が終わり、ステージの幕が開いて、いよいよ公演が始まりました♪
ムリダンガム(南インドの両面太鼓)やヴァイオリンの演奏をバックに、ダンサーが舞台に現れます。
さて、ここで、「バラタナティヤム」の歴史について、ちょこっとご紹介します。
「バラタナティヤム(Bharata Natyam:பரதநாட்டியம்)」は、南インド、タミル・ナードゥ州を起源とする古典舞踊。
2000年以上も前から存在すると言われ、インドで最も古い舞踊と言われています。
バラタナティヤムは、もともとは、神に奉納するために踊られる舞踊であり、主に寺院で「デヴァダシー(Devadasis)」という巫女によって踊られていました。
当時は踊り手はすべて女性であったのだとのこと。
19世紀、インドがイギリスの植民地支配下に置かれると、デヴァダシーは植民地政府によって娼婦の一種と見做されて禁止されるようになり、バラタナティヤムは滅亡の危機に瀕します。
そんな状況を救った最大の立役者が、「ルクミニ・デヴィ・アルンデール(Rukmini Devi Arundale)」という舞踊家です。
彼女は、バラモンの良家の子女でありながら”卑しい”踊りとされていたバラタナティヤムを学び、舞台で公演。世間にセンセーションを巻き起こします。
そして、バラタナティヤムにあった一部の性的表現スタイルを排除したり、伴奏にヴァイオリンを採用したりするなど様々な改革を行い、バラタナティヤムを寺院の奉納舞踊の枠を超えた舞台芸術として昇華させ、世間に広め、その地位向上に尽力したのです。
その結果、現在では、バラタナティヤムは、インドを代表する伝統舞踊としてその地位を確立し、世界中で鑑賞され、学ばれ、その芸術性は高い評価を受けるようになっています。
バラタナティヤムの公演、開演!
インド舞踊「バラタナティヤム」を鑑賞【南インド・タミルナードゥ】
今回の公演の演者は、新進気鋭のダンサー、レンジット(Renjith)&ヴァイナ(Vijna)のペア。
パッと見で確かな技術を感じさせる見事な踊りで、のっけから目が釘付けになります★
バラタナティヤムの踊りは、上半身を固定しながら腕や足を自在に動かし、フットワークによって縦横無尽に舞台を動き回り、手や目、顔のジェスチャーに基づく洗練された手話表現をすることが特徴です。
通常、ムリダンガムやヴァイオリン、フルート、ヴォーカリストなどで構成されたインド古典音楽の伴奏が付き、「ナットゥヴァンナル(Nattuvanar)」と呼ばれるヴォーカリストがパフォーマンスとアートの指揮者として舞台全体を統括しています。
本来は、女性のソロで演じられていたバラタナティヤムでしたが、近年では男性の踊り手も増え、男女ペアで踊られることも多くなっている様子。
新進気鋭のダンサー、レンジット(Renjith)&ヴァイナ(Vijna)
確かな技術を感じさせます。
バラタナティヤムの踊りには「ヌリッタ(Nritta)」と「ヌリティヤ(Nritya)」という2つの要素があります。
「ヌリッタ」は、リズムに乗せたステップとダイナミックな体の動きからなる身体表現。「ヌリティヤ」は、手の動きや表情、目の動きからなる感情表現です。
特に、手や指のジェスチャーは「ムドラー(Mudras)」と呼ばれ、怒り、喜び、悲しみ、愛などの感情から、月、太陽、蛇、孔雀、虎、蜂、森、蓮など動物や植物まで、あらゆるものを表現することができます。
インド舞踊「バラタナティヤム」を鑑賞【南インド・タミルナードゥ】
レンジット(Renjith)&ヴァイナ(Vijna)の踊るバラタナティヤムのパフォーマンスは素晴らしく、会場を埋め尽くす観衆たちは彼らの一挙手一投足に引き込まれていました。
リズミカルで軽快なステップワーク、体全体を大きく使ったダイナミックかつスピーディーな「ヌリッタ」は、見ている側も自然と体を動かしたくなってくる感じ。
そして、「ヌリティヤ」の感情の表現がとても見事でした♪
美しかったので女性ダンサーのヴァイナ(Vijna)ばかり見てしまったのですが、目の動きや顔の表情、しぐさや体の動きがとても豊かで魅力的。
女性の美しさ、可愛らしさを、顔の表情や体の動きによって余すところなく表現しているという感じで、つくづく感心させられてしまいました!
伴奏のカルナーティック音楽家たち
新進気鋭のダンサー、レンジット(Renjith)&ヴァイナ(Vijna)
オリジナルのダンスパフォーマンス
レンジット(Renjith)&ヴァイナ(Vijna)は、バラタナティヤムのシーンで近年世界的な注目を集めているデュオです。
2人は共にケララ州コジコデの出身。それぞれ独自にバラタナティヤムの専門的トレーニングを受けた後、2011年に結婚。結婚後はデュオのダンサーとして活躍を始めるようになります。
高い技術と思想に裏打ちされた2人の息の合った演技は世界的に評価され、若くしてデュオのダンサーとしての名声を確立させているのだとのこと。
インド舞踊「バラタナティヤム」を鑑賞【南インド・タミルナードゥ】
レンジットとヴァイナの息の合ったパフォーマンス
レンジットとヴァイナの公演は3部構成になっていて、第1部が伝統的な古典舞踊形式。第2部と第3部がオリジナルのダンス・パフォーマンスでした。
オリジナルのダンス・パフォーマンスは、伝統に囚われない革新的な構成、表現スタイルの演技で目新しい感じがありましたが、個人的には伝統的な古典舞踊形式の演技の方に魅力を感じました。
美しい所作が観客の目を釘付けにします。
インド舞踊「バラタナティヤム」を鑑賞【南インド・タミルナードゥ】
2人は人生のパートナーでもあります。
約1時間半の演技は、あっという間に終演。
観客席からは壮大な拍手が送られます。
レンジットとヴァイナ、2人の一流のダンサーがそれぞれの動きと表現を補完し、相乗効果を見せるバーラタナティヤム・デュオのパフォーマンス。
ソロの演技にはないダイナミックさと華やかさがあり、なかなか見応えがありました★
終演後の挨拶
ミュージシャン達も勢揃い
終演後は、舞台上でバックのミュージシャンたちと一緒に挨拶。
客席からはさらに盛大な拍手が巻き起こりました♪
ザ・ミュージック・アカデミー
チェンナイの「ザ・ミュージック・アカデミー」で行われたバラタナティヤムの新進気鋭のデュオ「レンジットとヴァイナ」の公演。
インド古典舞踊の素晴らしさを堪能することができました★
チェンナイに訪問する機会があったら、バラタナティヤムの公演をぜひ、鑑賞することをお勧めします。
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