「ブータン 山の教室」標高4,800メートルの秘境で見つけた生きる喜び【映画】

映画、ブータン 山の教室 エスニック映画館
記事内に広告が含まれています。

ヒマラヤ山脈、標高4800メートルにある秘境ルナナ村に響くブータン民謡。

都会から来た若い先生と、村の人たちと子どもたちの心の交流を描いた感動作。

映画『ブータン 山の教室』公式サイト

スポンサーリンク

標高4,800mの秘境ルナナ村に都会から来たイマドキの若い先生が赴任

1970年代に国の指標として「国民総幸福(GNH)」が打ち出され、2005年に行われた国勢調査で国民の97%が「幸せ」と答えたという”幸せの国”ブータン。

映画『ブータン 山の教室』(原題:Lunana: A Yak in the Classroom)は、現代のブータンの僻地の村、ヒマラヤ山中にある標高4,800mのルナナ村を舞台に、都会から来た教師の若者と村の子どもたちの交流を描いた作品です。

監督・脚本は、ブータン出身の監督「パオ・チョニン・ドルジ」。2019年に公開された本作は、パオ・チョニン・ドルジ監督の長編デビュー作です。

物語の主人公は、ブータンの首都ティンプーに住む若い教師ウゲン(シェラップ・ドルジ)。ギターと歌が好きな、今どきのブータンの若者です。

ウゲンは、5年間の教員訓練の最終年を迎えていましたが、教師の仕事に対するやる気はゼロ。教師の仕事を辞め、歌手になりオーストラリアに行くことを密かに夢見ています。

そんなある日、ウゲンは上司から呼び出され、ブータンで最も僻地にある標高4,800mの村ルナナの学校に赴任するように告げられます。

嫌々ながらにルナナへと向かう羽目になったウゲン。

ティンプーからバスで一昼夜かけてガサへ行き、ガサからは案内役「ミチェン」(ウゲン・ノルブ・へンドゥップ)の先導のもと山道を歩き、ルナナへと向かいます。

1週間以上かけて、険しい山道を登って到着したルナナ。そこは、電気も通っておらず、車の姿を見たこともない人たちが暮らす、現代的な生活とは隔絶された村でした。

村の村長をはじめ、村人総出で「先生」と迎えられたウゲン。

しかしながら、ルナナの環境は今どきの都会の若者であるウゲンにとって、耐え難いものでした。

こんな所で教師を務めるのは無理だと言い、帰りたい旨を村長に伝えるウゲン。

しかし、ボロボロの校舎で、クラス委員の「ペム・ザム」(ペム・ザム)ら、子どもたちの真っ直ぐな瞳と接するうち、ウゲンの気持ちに変化が生まれるようになります。

ウゲンは、子どもたちと、そして、ルナナの村と向き合い、自らの中に受け入れるようになっていくのです。

スポンサーリンク

秘境ルナナに暮らす実際の村人たちを俳優として起用

映画、ブータン 山の教室

作品は、ルナナに実際にある学校で撮影されました。

ルナナ村は今でも電気が通っておらず、携帯電話も通じず、映画の撮影では太陽電池を利用したそうです。

パオ・チョニン・ドルジ監督は、映画に出演する子どもたちや村人役として、実際にルナナ村に暮らす村人を起用しました。

監督の話では、村人を起用した理由は、村人たちこそが、すべての話や人物のインスピレーションの源だからなのだそう。

人生で一度も村から出たことがなく、映画そのものも見たことがないという村人たちの姿は素朴で純粋で魅力的です。監督は村人たちに、役を演じるというのではなく、村人が自分自身を語れるように、村人自身のキャラクターをベースに役を設定したのだそうです。

村人の中でも特に印象的なのが、クラス委員のペム・ザム役のペム・ザム。映画のチラシに載っている女の子です。

ペム・ザムは、実際にルナナで暮らす9歳の少女(撮影当時)で、人生で一度もルナナを出たことがなく、「映画」というものも知らず、電気やインターネットに触れるのも初めてだったのだそうです。

彼女のキラキラとした笑顔と自然な演技は、とても魅力的でした。

スポンサーリンク

山々に響き渡る「ヤクに捧げる歌」

映画には印象的で心に残るシーンがいくつもありますが、特に印象的だったのが、伝統歌「ヤクに捧げる歌」を歌うシーン。

ルナナ村で一番の歌い手である女性「セデュ」(ケルドン・ハモ・グルン)が歌う「ヤクに捧げる歌」が美しい山々に響き渡る様子は、思わず目を瞑って聴き入ってしまいそうになるほど。

ヤクに捧げる歌

凛々しきヤク その名はハダル
あたかも神の子のごとし
汝 ハダルの故郷を問うなかれ
知りたくば教えよう
ハダルの故郷は 壮大なる白い山の麓
黄金色の牧草が大地を覆う場所
花に彩られし この景色
ここぞ ラダルが故郷と呼ぶ場所
我は高地の緑草を食む
池や湖の水を飲みくだす
もの悲しきは我 ハダル
薄幸なる者は我 ハダル

映画『ブータン 山の教室』プログラム

監督のインタビューによると、この歌はブータンで広く知られている伝統歌で、高地で暮らすヤク飼いの日常と、自然と大地への感謝、ブータン人の生活の基盤である仏教とは何かについても歌われているのだとのこと。

物語の終盤の、村の村長が「ヤクに捧げる歌」を歌うシーンも感動的でした。

 

そして、映画のラストシーン。

歌手として、オーストラリア・シドニーのバーで歌うウゲン。バーのオーストラリア人客たちは、彼の演奏をほとんど聴いていません。

そんな時、ふと、ウゲンは演奏を止め、おもむろに「ヤクに捧げる歌」を歌い出したのです。

夢を求め、自分を求め、飛び出した先のオーストラリア。

そこで、自らのアイデンテティーの拠り所となったのは、自分が求めていた世界とは真逆の、嫌々ながら訪れたルナナの風景でした。

スポンサーリンク

映画『ブータン 山の教室』パオ・チョニン・ドルジ監督からメッセージ

映画『ブータン 山の教室』には、パオ・チョニン・ドルジ監督からの様々なメッセージが込められています。

そのメッセージは、ブータンに生きる若者たちに向けてだけでなく、私たち日本人にとっても強く響くものです。

YOUTUBEで監督のメッセージが投稿されていましたので紹介します。

映画『ブータン 山の教室』パオ・チョニン・ドルジ監督からメッセージ

この映画の中でずっと通底するテーマに、“自分が探しているものを全く期待しないところで見つける”というものがあるんです。

ウゲンは自分が探しているものを求めて近代化されたオーストラリアに行きたかった。
でも、真逆の辺鄙で遅れているルナナ村のような土地でそれを見つけます。
同じようなメタファーで、教師が人生の教訓を生徒から学んでいます。

この映画は、自分の居場所や幸せを探すという人間の共通の願いを描いています。
日本文化と全く違う内容ですが、繋がりがある共通するものだと思っています。
今はコロナで大変な危機ですけど、自分を内省するいいチャンスです。
この映画を観て、真の幸せとは何か、満足するとはどういうことか、考えて欲しいです。
人間の心の忍耐強さ、苦しみを乗り越えて再び光ることが出来ると感じてください。

日本の文化や社会は、世界で最もレジリエンス、回復力が強い人々です。
皆さんは暗い嵐の後でも再び光輝く力がある国民であり、文化だと思います。
夜明け前が一番暗いと言いますので、苦しんでいる若者の方がいたら、自分は一人じゃないんだ、そして太陽は必ずまた昇ると信じてください。

YOUTUBE動画「パオ・チョニン・ドルジ監督からメッセージ」

キャスト

ウゲン         :シェラップ・ドルジ
ミチェン      : ウゲン・ノルブ・へンドゥップ
セデュ         : ケルドン・ハモ・グルン
ペム・ザム    : ペム・ザム

スタッフ

監督・脚本  :パオ・チョニン・ドルジ
プロデューサー:ステファニー・ライ
アソシエート・プロデューサー:ツェリン・ドルジ
撮影:ジグメ・テンジン

スポンサーリンク

関連記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました