自由を愛する若いアーティストの女性テッサは、親の決めた相手との結婚を拒否し、ヒッチハイクで旅をして港町コーチンのアパートに落ち着きます。テッサはその部屋で見つけた住人とコソ泥とのやりとりを描いた漫画を読み始めるのですが、なんと漫画は肝心のところで終わってしまい結末がわかりません。
漫画はどうやら元の住人チャーリーが描いたもののようです。結末知りたさに、部屋に残された写真を手がかりにしてチャーリーを探しに再び旅に出るテッサ。道中、チャーリーを知る様々な人々と出会い、 チャーリーの影を追いながらテッサが辿り着いたのは……?
インド・ケララ州映画賞7冠に輝いた傑作
世界最大の製作本数を誇るといわれるインド映画。
「マサラ・ムービー」とも呼ばれ、日本でもその人気が高まってきています。
1998年公開の『ムトゥ踊るマハラジャ』(ラジニ・カーント主演)や、2009年公開の『きっと、うまくいく』(アーミル・カーン主演)は、日本でも大ヒットしました。
ヨーロッパがすっぽり入るほど広大なインド。地域によって話される言語は様々です。
もちろん、映画もそれぞれの言語ごとに製作されていて、主なマーケットでも、ヒンディー語、ベンガル語、タミル語、テルグ語、マラヤーラム語の5つの語圏の映画が製作されています。
※『ムトゥ踊るマハラジャ』はタミル語映画、『きっと、うまくいく』はヒンディー語映画(ボリウッド)です。
今回ご紹介する作品『チャーリー』は、南インド・ケララ州で話されているマラヤーラム語の映画。
2015年に公開され、南インド中で大ヒットを記録し、インド・ケララ州映画賞7冠に輝いた傑作です。
カオスな部屋で発見した漫画に引き込まれる
物語の主人公は、南インドの大都市バンガロールでグラフィック系の仕事をしている女性「テッサ」(パールワティ)
自由人な彼女ですが、インドは未だ伝統的な慣習の残る国です。
親が結婚相手を決め、彼女の縁談が進められようとしていました。
それに反発した彼女は、バックパックを背負って旅に出ます。
たどり着いたのは、ケララ州の港町コーチン。
この町で借りたアパートのひと部屋が、テッサの人生を大きく動かしていくことになります。
テッサが借りた部屋は、驚くほど物が散乱し、天井や壁にオブジェや絵などがごちゃごちゃと飾られたカオスな部屋。
前に住んでいた住人の荷物が片付けられていないのです。
しぶしぶ、部屋の片付けを始めたその時、たくさんの荷物の中から彼女は手書きの漫画を発見!
彼女は夢中になってその漫画を読み、物語に引き込まれていきます。
しかし、漫画は肝心なところで途切れていました。
物語の続きを何としても知りたいと思ったテッサ。
そして、彼女は、漫画の作者である前の住人「チャーリー」を探すことを始めるのです。
未だ見ぬ物語の主人公「チャーリー」を探して…。
少ない手がかりをもとに、テッサは「チャーリー」を知る人を訪ね歩きます。
チャーリーに部屋を貸していた家主「ウスマン」、チャーリーに頼まれて船を貸した漁師「マターイ」、漫画に出てきたコソ泥の「スニ」、チャーリーの父親の「デイビッド」、そして、チャーリーの居場所の鍵を握る女性「カーニ」などなど…。
彼らに話を聞く度に明らかにされる、チャーリーが巻き起こした数々のエピソード。
観客は、そんなチャーリーのエピソードを、チャーリーに関わった人々の回想シーンによって共有していきます。
チャーリーの破天荒で突拍子もない、けれども、どこか温かで人情味溢れるエピソードを知るにつれ、次第にテッサは、未だ見ぬチャーリーという人物に惹かれていくようになります。
そして、物語を観ている私たち観客もテッサと同じように。
バックウォーター(ケララ州)
トリヴァンドラム(ケララ州)
コヴァーラムビーチ(ケララ州)
コーチン(ケララ州)
物語の舞台は、南インドのケララ州。
港町「コーチン」や紅茶のプランテーションで知られる高原「ムンナル」、アラビア海に面した美しい海岸など、物語の背景としてケララの美しい風景がスクリーンに映し出されます。
特に、テッサがコーチンへ向けて旅立つ船のシーンや、ラストのケララの文化の都「トリチュール」で行われる象の祭り「プーラム」のシーンなどは、観ていてワクワクしました。
映画全体に、ケララの魅力がうまく表現されていました。
深呼吸すると、人生はこんなにも美しい
この映画の魅力は、何と言っても「チャーリー」の奔放で自由な生き方です。
行く先々で人々を笑顔にし、感動を与えるチャーリー。
彼の巻き起す数々のエピソードをテッサと一緒に追いながら、観客はその魅力にどんどん引き込まれていきます。
破天荒で突拍子もないところがあるものの、世の中のいろいろな常識や日常のしがらみを突き抜けた、チャーリーの生き方に観客もテッサも憧れるようになるのです。
「チャーリー」を演じるのは、ドゥルカル・サルマーン。
マラヤーラム語映画界の大スターであるマンムーティを父に持つサラブレッドで、ボリウッド進出も噂される若手の実力派です。
本作で、ケーララ州映画賞・最優秀主演男優賞を受賞しました。
「テッサ」を演じるのは、パールワティ。
マラヤーラム語映画だけでなく、タミル語、カンナダ語映画でも活躍している女優です。
彼女、とても魅力的でした。
自由さの中にどこか芯の強さと落ち着きを感じさせるテッサの人柄を見事に演じきっています。
彼女も本作で、ケーララ州映画賞・最優秀主演女優賞を受賞しています。
映画を見終えた後、なんだか心が解き放たれたような、とても爽やかな気分になることができました。
”深呼吸すると、人生はこんなにも美しい”
映画のチラシには、こんなキャッチが書かれていました。
映画のワンシーンで、美しい風景の中、チャーリーが深呼吸する場面があるのですが、映画を見終えた後、本当に深呼吸をしたような気分になりました。
ほんと、いい映画です。
『チャーリー』を全国の映画館に!
この『チャーリー』、日本にインド映画を紹介したいという思いから設立された「DOZO Films」の初の配給作品。
日本語字幕で素晴らしいマラヤーラム映画を観ることができるのは嬉しいです!
けれども、まだ一般公開には至っておらず、今回も妙典のイオンシネマでの1回切りの上映でした(この前に大森の「キネカ大森」で2回上映されたとのこと)。
「DOZO Films」は、『チャーリー』を一般公開&全国公開させたいと働きかけを行っている様子。
ぜひ、全国公開を実現させ、多くの方にこの素晴らしい映画を観てもらいたいものです。
映画『チャーリー』の公式ホームページはこちらです → 映画「チャーリー」公式HP
キャスト
チャーリー :ドゥルカル・サルマーン(Dulquer Salmaan)
テッサ :パールワティ(Parvathy)
カーニ :アパルナ・ゴーピナート(Aparna Gopinath)
クンジャパン :ネードゥムディ・ウェーヌ(Nedumudi Venu)
コソ泥スニ / Dソウザ :ソウビン・シャヒール(Soubin Shahir)
デイビッド :ラーダクリシュナン・チャクヤット(Radhakrishnan Chakyat)
スタッフ
監督 :マールティン・プラーカット(Martin Prakkat)
脚本 :Unni R., Martin Prakkat
製作 :Martin Prakkat, Joju George, Shebin Becker
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